米中貿易戦争の始まり・きっかけは2015年という話

政治・経済関連

米国と中国の貿易戦争ともいうべき、輸入品に高関税をかけ合う争いが続いています。

このまま加熱していけば、米中だけの経済問題ではなくなり、世界経済への悪影響は必至です。

ここにきて米国は、経済問題だけではなく、中国の少数民族への弾圧に対しても問題視し、中国へ別の角度から圧力をかけ始めました。

【毎日新聞 2018.10.12】
米議会の「中国に関する議会・政府委員会」は10日、2018年版の報告書を公表し、中国当局が新疆ウイグル自治区で少数民族に「空前の弾圧」を行っていると非難した。

中国の少数民族弾圧は、今に始まったことではありません。

それを知らなかった米国のはずはありませんから、まさにこの問題提起は、中国共産党を追い詰めるための戦術です。

果たして米国は、いつから中国を本当の脅威として認識し、対応するようになったのでしょうか。

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米中貿易戦争の現状

米国が中国からの輸入品に対して、大幅な関税をかけると発表したのは、2018年に入ってからのことです。

7月に第1弾の処置がとられると、中国もすぐに反応して対抗処置をとり、米中双方がおよそ500億ドル規模で高関税をかけ合い、8月には第2弾が発動されました。

【毎日新聞 2018.8.23】
トランプ米政権は23日午前0時(日本時間同日午後1時)過ぎ、年間輸入総額160億ドル(約1.8兆円)規模の中国製品に追加関税を課す対中制裁の第2弾を発動した。 中国も即座に同規模の報復措置を実施に移した。

米中の制裁・報復措置は7月の第1弾と合わせて計500億ドル規模に拡大し、世界の2大経済国が互いに高関税を課し合う貿易戦争は一層、泥沼化した。

更に9月には、第3弾の対中関税処置がとられています。

【朝日新聞 2018.9.25】
米トランプ政権は24日、知的財産の侵害などを理由とした中国への制裁関税の「第3弾」を発動した。 中国からの輸入品計2千億ドル(約22兆円)分が対象で、中国も600億ドル分の米国産品に関税を上乗せする報復措置を実施した。

この第1弾から第3弾の発動で、米国は中国からの輸入総額のほぼ半分の約28兆円に、高関税を発動したことになります。

対抗の処置をとった中国も、米国からの輸入総額の7割、約12兆円に報復関税を課したことになりました。

 

この数字からもわかるように、米国と中国のお互いの輸入総額には、3倍強の差があります。どちらによりダメージが大きいかは、明白です。

この貿易戦争は、いつまで続くのでしょうか?

終焉は中国共産党の崩壊まで?

米国のエドワード・ルトワックが新聞のインタビューに応えた記事があります。

【毎日新聞 2018.10.14】
米国防総省のアドバイザーなどを務め、戦略論研究で知られるエドワード・ルトワック氏が来日し、毎日新聞のインタビューに応じた。貿易や知的財産権などを巡る米中対立について「長期間に及ぶことになる。対立は中国共産党政権が崩壊するまで続くだろう」と語った。

なんと、この米中経済戦争は、「中国共産党政権が崩壊するまで続く」と言っています。

エドワード・ルトワックといえば、歴史家・戦略家・国防アドバイザーとして知られ、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを歴任した人物です。

さらに記事は、

米中両国が核兵器保有国であることから「米中が軍事衝突する可能性はない」とも強調。 ただ、その結果、かえって対立は長引き、共産党支配が終わる「レジーム・チェンジ(体制変革)」まで収束しないと予測した。

一方で「日米ともに中国とビジネスを続ける意欲を持っているという意味で、米ソ冷戦とは異なる」と指摘した。

エドワード・ルトワックの中に、“貿易戦争の終息=中国共産党の崩壊” という未来予想図が描かれていることは、注目に値しますが、本当にそこまでいくのか、ちょっと信じられません。

米国はなぜ、中国への経済戦争を始めたのでしょうか。

 

オバマ政権では、米国と中国の関係は途中まではとても良好でした。

それが大きく転換されたのが、中国主導で設立されたAIIBの存在です。

AIIB設立と参加国

2015年12月、中国が中心となって、AIIB(アジアインフラ投資銀行)が設立されました。
 
すでにアジア圏には、日本と米国主導で、1966年に設立されたアジア開発銀行(ADB)があります。
 
たしかに、アジア地域のインフラ資金需要は膨大で、財源が足りていないという現実がありますので、AIIB設立も理解できます。
 
 
しかし問題は、独裁政治の中国が主導で、中国が目論む “一帯一路構想” にAIIBを活用しようという点です。
 
米国と肩をならべ、やがて抜き去り、覇権国家として世界を牛耳る気であることは、間違いありません。
 
問題は、このAIIBに加盟した国です。
 
今までは、中国といえばロシアやパキスタンや南米の国々と連携して、欧米諸国に対抗するというパターンがほとんどでした。
ところが、AIIBに加盟したのは、イギリスやドイツを中心としたヨーロッパ諸国、オーストラリアやニュージーランドといった英語圏の国々、更にイスラエルや韓国までもが、中国の呼びかけに応えたのです。
日本国内においても、経済界や親中派の人達がAIIB参加の必要性を訴え、しきりに『乗り遅れるな論』を展開しました。
 
結局、発足時の加盟国は57ヵ国となり、2017年12月時点では、アジア開発銀行の加盟国67をこえて、84カ国(地域)にまで拡大しています。
このような背景があり、米国は中国に対して、明らかな脅威として、認識するに到りました。

米国トランプ政権の本気度

トランプ大統領は、大統領候補だった2016年に、中国に関しては、米中貿易の改革を公約の一つに上げていました。
 
中国はアメリカの雇用とカネをかすめ取っている」とまで激しく語り、「中国を為替操作国に認定する。 中国製品に45%の関税をかける」との主張を展開してきました。
 
 
しかし、大統領に就任してからは、中国に対しての態度を軟化させます。
 
2017年11月の初訪中では、習近国家主席平から、故宮(世界文化遺産)を貸し切っての夕食会で、もてなしを受けました。
 
【THE WALL STREET JOURNAL 2017.4.13】
ドナルド・トランプ米大統領は12日、就任後に知己になったある国の首脳との関係について冗舌に語った。
「われわれの関係は非常に良い」。トランプ氏はホワイトハウスの大統領執務室で行われたウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューでそう述べた。
「われわれの相性はすごくいい。互いに好意を持っている。私は彼のことがとても好きだ。彼の妻も素晴らしい」
これほど温かい言葉で評されているリーダーとは誰か。中国の習近平国家主席だ。
 
トランプ大統領は「私は彼のことがとても好きだ」とまで語り、両国関係はある面、良好に見えました。
 
しかしそれは、北朝鮮の核・ミサイル問題という大きな課題があったので、中国の北朝鮮に対する影響力を、米国が利用しようとしたからです。
 
【Reuters(ロイター)2017.10.18】
トランプ大統領は大統領選の期間中、就任初日に中国を為替操作国に認定すると主張していたが、実際に就任した後は態度を軟化させ、北朝鮮の核開発問題を巡り中国に協力を求めている。
米ワールドワイド・マーケッツの首席市場ストラテジスト、ジョゼフ・トレビサニ氏は「北朝鮮問題で中国から最大限の協力を引き出す必要性があるため、中国を為替操作国と認定することは好ましくないだろう」と指摘。
 
ところが、中国が北朝鮮の金正恩を押さえ込むその役目を、充分に果たせないことがわかった時点で、米国は中国に配慮する必要がなくなりました。
 
現在は、高関税による経済戦争を中心に、少数民族弾圧に対する人権問題の指摘も含めて、他方面から中国共産党を追い詰めようとしています。
 
また、ロシアとの間で結んだINF(中距離核戦力)全廃条約から、米国は離脱しようとしています。
 
INF全廃条約は、1987年に米国とソ連(現ロシア)の間で結ばれたもので、射程500~5500㎞の地上発射型中距離ミサイルを廃棄するということで合意し、実行した条約です。
 
米国とロシアが、中距離核戦力を保持しないのをよいことに、中国は確実に中距離核戦力を増強し続けてきました。
 
INF全廃条約の離脱は、対中国への威嚇につながります。
 
エドワード・ルトワックが言うように、本当に『対立は中国共産党政権が崩壊するまで続く』という所までいくのでしょうか?
 
1991年にソ連が崩壊していったように、中国共産党の消滅、そして中国の分解がおこるのか、2020年頃までには決着を見るかもしれません。

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