日本には、電波法(1950年)という法律があります。
電波法の第一章第一条には目的として、
「電波の公平且つ能率的な利用を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的とする」
と書かれています。
私達の身近なところで使用されている電波としては、テレビやスマホ(携帯電話)がすぐに思いつきます。
特定の企業にしか認められていない電波の利用権を、今後どう広げていこうと、政府は考えているのでしょうか。
その一つとして、電波オークションという方法が注目されています。
メリットやデメリットなどを含めて、電波オークションの内容を調べてみましょう。
電波オークションとは
電波オークションとは、電波の周波数帯の利用権を競争入札にかけることです。
特定のテレビ局や通信事業者などに割り当てられた電波利用権を拡大することで、業界内に競争が生まれ、電波利用料金のみならず競争入札金が政府の収入になります。
ところが現在の日本では、総務省の認可を受けた場合にしかテレビ放送事業を行うことができない関係上、地上波放送事業への新規参入が実質的に不可能な状態にあります。
電波行政が、総務省の裁量行政になっているのです。
この業界にも、政官財による癒着的構造があります。この現状を打破すべき出てきているキーワードが、『電波オークション』という言葉です。
電波利用料とは
電波の適正な利用を確保するために、電波法に基づいて総務省は電波利用料を徴収しています。
総務省に入ってくる電波利用料(歳入)は、平成24年度でおよそ734.7億円でした。 そのうちの72.4%を携帯電話事業者が支払っています。
それに対して、放送事業者が納めている電波利用料は、7.0%です。
その内訳が総務省のHPに出ています。(『平成28年度 主な無線局免許人の電波利用料負担額』)
これを見ると、放送事業者の納めている電波利用料がいかに少ないか、ビックリしてしまいます。
民放でおよそ5億円前後、NHKですら電波利用料として年間22億円しか納めていないのです。
新規参入される心配のない業界で、売上(数千億円)から考えたら微々たる金額を納めれば済むという環境が、放送業界なのです。
これこそ正に、マスメディアがよく使う『既得権益』そのものではないでしょうか。
閣議決定した電波オークション法案
この電波オークションの法案は、2012年の民主党野田内閣の時に閣議決定され、通常国会に提出されました。
正式名は、電波オークション法案ではなくて「電波法の一部を改正する法律案」です。
この時は自民党の反対で一度も審議されることなく廃案になってしまいました。
結果的に今現在(2018年1月)、電波オークションを導入するという電波法の改正は行われていません。
電波オークション反対論(デメリット)
電波オークションの導入に反対している主な勢力は、放送業界です。
今までの話しの流れで説明するまでもないでしょうが、既得権益を守りたい、競争相手を増やしてほしくないという考えから、電波オークションに反対しています。
他には、裁量権が縮小してしまう総務省、放送通信業界から献金を受け取っている政治家(正式には政治家は企業献金を受け取れませんので政党経由)がそれにあたります。
電波オークションのデメリットとして上げられているのは、資金力のある事業者だけにチャンスが生まれる構造になりかねないという点です。
他には、落札額が高騰した場合のデメリットも指摘されていますが、オークションでは競争の結果金額が上がるわけですので、これは入札者の自己責任の範ちゅうでしょう。
電波の適正な価格評価がないというものもあります。これも、年月と市場原理のなかで、やがて落ち着いていく問題かと思います。
更には、外資が参入すれば安全保障上の懸念が生じるという意見です。オークション導入時に外資規制を行うのは、WTO(世界貿易機関)違反になるからです。
この問題に対しては、先駆けて電波オークションを導入している米・英・独・仏・韓国などの方式を参考にしていけば良いでしょう。
電波オークションのメリット
では、この電波オークションによって、どんなメリットが生じるのでしょうか。
1.政府の大規模な財源になる
2.新規テレビ局が登場し、業界に競争原理が働く
3.電波周波数を有効利用できるようになる
4.天下り規制や電波売買の透明性が高まる
5.独立の電波機関の誕生
電波オークションをすることで、放送業界への新規参入が可能となり、国民にとって新たなサービスや事業者の選択肢が増える事になります。
政府にとっては、今までなかった収入が見込めるわけですので、財源確保が可能となります。
メリットとデメリットを比較してみると、圧倒的にメリットの方が大きいと感じるのは私だけではないでしょう。
電波オークション 安倍内閣は?
自民党が野党時代に反対した電波オークション法案を、安倍内閣では推進しようという動きがあります。
【産経新聞 2018.1.10】
安倍晋三首相が掲げる成長戦略に反映する電波制度改革をめぐり、総務省が昨年12月25日の有識者会議で議論をスタートさせた。 事業者への電波の割り当て方法や電波利用料の算出方法を見直し、新規参入を促す。楽天が携帯電話事業者への参入を正式に発表したことで改革の機運は高まりつつあるようにみえる。
最大の焦点だった電波の利用権を競りにかける電波オークション導入は「検討継続」となったままだが、制度設計の行方によっては議論が再燃する可能性もある。
反対論のところで書いたように、電波オークションを導入して一番困るのは、既存の放送局です。
そこに新しい競争が生まれることで、放送業界のぬるま湯状態が終焉してしまうことは、間違いありません。
市場が活性化すれば、私達視聴者にとっては選択肢が増えることになります。
放送業界を敵に回し、安倍内閣が電波オークション導入に向けて舵をきれるか、政治的判断が待たれます。
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