通称『DV防止法』(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)が制定されたのは、2001年(平成13年)のことです。
それまでは、“夫婦喧嘩は犬も食わない”的要素が強く、明らかにそのレベルをこえた夫婦の問題に対しても、行政サイドは関与することを控えてきたきらいがありました。
そこに警鐘をならしてきたのが、女性団体や法曹関係者でした。そのあと押しをうけて、超党派の女性国会議員による議員立法で、DV防止法が成立します。
ある面、他人が入り込むことを遠慮してしまう家庭という空間。
法律がそこに踏み込むことで、辛い環境に耐えてきた特に女性達を救い出したことは、大きな意義があることです。
DVとは?
まずDV防止法の内容にふれる前に、『DV』とは何なのか確認してみます。
「DV」とは、何の略称でしょうか? ドメスティックバイオレンス(Domestic Violence)、略して「DV」です。
そのままの英語を直訳すれば、ドメスティックは、「家庭的であるさま」。バイオレンスは、「暴力、暴行」ということになります。
一般的なとらえかたとしては、「家庭内の配偶者による暴力」=「DV」として考えられています。DVという言葉もだいぶ世の中に浸透してきました。
DVの定義
DVを防ぐためにつくられたのが、通称『DV防止法』です。正式名称は、『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律』です。
内閣府男女共同参画局では、DVに対する明確な定義を示していません。
HPのそのままの表現をつかえば、
『「ドメスティック・バイオレンス」とは何を意味するかについて、明確な定義はありませんが、一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いようです』
と書かれています。
法律の名称でもわかるように、あくまで配偶者からの暴力という観点でとらえていますので、ある面あいまいなDVという言葉を行政サイドではあまり使わないのだと思います。
「配偶者からの暴力」に対する定義として、身体に対する暴力だけではなく、『心身に有害な影響を及ぼす言動』も含まれています。
言葉の暴力も含むということです。
相手に危害を与える暴力は、圧倒的に男性から女性に及ぼすものが多いでしょうが、それに対して、言葉の暴力は、男性女性関係なく起こりえます。
DV件数(警察庁)
一年間のDV件数は、現在どれくらいカウントされているのでしょうか?
以下は、警察庁が発表した内容です。まずは相談件数からです。
平成13年(2001年)のDV防止法制定時より年々増え続け、昨年の平成27年(2015年)には、63,141件の相談が寄せられています。
次に、検挙状況です。
昨年は、7,914人が刑法犯として検挙されました。 平成23年以降の一年ごとの伸び率が高くなっています。
これは年々DVが、単純に増えていると考えられるのか、それとも適用範囲を広めて対処した結果なのかわかりませんが、個人的には後者だと思います。
これはこの統計に限らず、急激な伸びや落ち込みがあった時は、特別な社会情勢の変化がないかぎり、適用範囲の変更や行政の取組み方の変化によるからです。
いづれにしても、平成13年のDV防止法制定により、年間これだけの人が罪に問われ、同時にほぼ同数の被害者が救われていることになるので、法律ができた意義はとても大きいといえます。
DV防止法の内容
DV防止法という法律ができることで、具体的に何が変わったのでしょうか?
DV防止法の内容を見てみると、まず法律名に、「暴力の防止及び被害者の保護」とあります。何よりもDVの被害者を護るための法律であることがわかります。
前文でもそのことを明確にうたっています。
「配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備することにより、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、この法律を制定する」
家庭内の問題だからといって、今までのように放置しないで、しっかり対処しますよという法律になっています。
まず、このDV防止法により都道府県では、基本計画を定めなければなりません。
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護」に関しての方針をたて、具体的には、『配偶者暴力相談支援センター』を設置する義務があります。
支援センターでは、以下のことを行います。
○相談や相談機関の紹介
○カウンセリング
○被害者及び同伴者の緊急時における安全の確保及び一時保護
○自立して生活することを促進するための情報提供その他の援助
○被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供その他の援助
○保護命令制度の利用についての情報提供その他の援助
DV相談件数10万件
2014年には、支援センターに、102,963件の相談が寄せられています。
他には、裁判所が配偶者に対して、保護命令を出すケースもあります。
具体的に、被害者への接近禁止命令や住居からの退去命令が出されます。もし命令に違反すれば、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。
また、発見者による通報という項目があります。配偶者からの暴力を受けている人を発見した人や医療関係者は、すすんで警察や配偶者暴力相談支援センターに通報することを推奨しています。
このようにDV防止法によって、様々な行政サイドの支援体制が整ってきています。それでも上記で見た支援センターへの相談件数が、年間で10万件を越えている現状があるわけです。
まだまだ課題は多そうです。
DV防止法改正内容
2001年にDV防止法が制定されたことで、家庭内で暴力を受けていたにもかかわらず、沈黙していた多くの女性達が、救われることとなりました。
配偶者からの暴力も明らかに犯罪であるという当たり前の事実。
ある意味閉ざされた空間の家庭内で、「暴力をふるわれるのは、私にも問題があるのでは」という被害者の錯覚現象。
それらをDV防止法が、気づかせてくれたのです。
DV防止法は2001年の制定・施行以来、15年の歳月が経ちましたが、その間に三度の改正が行われています。
一回目の改正は、2004年に行われ、その主な点は、暴力の定義が拡大したことと、保護命令制度が拡充したことでした。
この改正により、精神的な暴力も暴力の範ちゅうに入ることが定義付けられました。身体的暴力は、誰の目にも明らかなものです。
ところが精神的暴力は、当然のことながら形に見えません。
そういう意味では、これをどう判定するのかという問題が、今後、必ず出てくる気がします。
DV防止法の次の改正は、2007年でした。DV被害者への保護の現状を踏まえて、2004年の改正では不十分とし、さらに拡充するなど、被害者保護を推進する改正となりました。
また市町村にも基本計画策定の努力義務や、配偶者暴力相談支援センターを代替する施設の設置を努力義務としています。
DV防止法 対象の拡大
2013年(平成25年)には、三回目のDV防止法改正が行われました。
この改正では、今までその対象が配偶者や元配偶者だったものを「生活の本拠を共にする交際相手」もDV防止法の対象になることが決まりました。
いわゆる同棲・同居している交際相手ということです。
ある意味、婚姻届を出しているか出していないかだけの違いだった対象を、拡大したのは当然といえるかもしれません。
ちまたでは、『デートDV』という言い方をされることがありますが、これは、恋人からの暴力をいっているのであって、この法律とは別の問題です。 「生活の本拠を共にする交際相手」からの暴力が、この法律に適用されるわけです。
便宜上、「DV防止法」と使っているので、勘違いされてしまいますが、あくまで「DV防止法」の正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」です。
DV防止法の更なる改正も
力でねじ伏せようとする者がいる以上、法の力をもって対処せざるを得ません。
DV防止法の基本部分である「暴力の防止及び被害者の保護」を更に強化するために、今後もDV防止法の改正の可能性はあるでしょう。
法律は、極論すれば、人々が幸福で安寧な暮らしをするために存在するものです。改正することで、それが達成するのであれば、手続きをきちんと踏んで法律を変えればいいことです。
これは憲法にもいえることです。人々の為になることは、変えていけばいいのです。
以前は議論すら許さない風潮がありましたが、その頃の時代から比べると、だいぶ世の中が変わってきた気がします。
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