福島第一原発の汚染水の処理方法は? 海水への影響について調べてみた

福島第一原発1 社会問題(課題)

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震で福島第一原子力発電所(以下「原発」で表記)が、地震と津波の被害をうけました。

この災害の影響で、発電所から放射線が漏れ、近隣の多くの人達が、避難を余儀なくされました。

震災から8年以上経ちましたが、いまだに原発事故の影響は続いています。

日韓関係がギクシャクするなか、福島第一原発の汚染水を問題視する、韓国関連のニュースが入ってきました。

【JIJI.COM 2019.8.19】

韓国外務省は19日、日本大使館の西永知史公使を呼び、東京電力福島第1原発から出る汚染水の処理方針や放射性物質トリチウムを含む処理水の「海洋放出」に関する事実確認と説明を求めたと発表した。

「汚染水の処理結果が両国国民の健康と安全、海でつながった国全体に及ぼす影響を非常に厳しく認識している」と表明。海洋放出をめぐり、日本政府の「公式的な回答」を求めたほか、周辺の海の生態系に影響を及ぼさないよう日韓両国で取り組むことを提案した。

日本の痛いところを突いた、韓国の巧妙な一手です。

この機会に、原発の汚染水に関して、調べてみたいと思います。

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汚染水とは?

福島第一原発では、どんな汚染水が作り出されているのでしょうか?

福島第一原発の事故は、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故とは違い、原子炉が直接爆発したわけではありません。

チェルノブイリ原発事故は、保守点検のため前日からの原子炉停止作業中に、急激な出力上昇をおこして、原子炉が爆発してしまったケースです。

それに対して福島第一原発では、地震を探知し、原子炉は安全に停止しましたが、地震の影響で発電所内の外部電源が喪失してしまいました。

これを受け、非常用ディーゼル発電機が自動起動します。ところがそこに想定外の津波が襲い、発電機が使用不能に陥ってしまいました。

これでは、冷却機能が使えません。

その結果、原子炉建屋内には水素が充満して、水素爆発をおこしてしまいました。

今でも記憶にある人は多いかと思いますが、報道で映し出された1号機3号機の爆発は、これが原因でした。

福島第一原発・水素爆発

現在、福島第一原発は稼働しておらず、廃炉にむけての作業が続いています。

いまだに原発近辺の浪江町・双葉町・大熊町(一部は解除)は、立ち入り禁止になっていて、およそ4万3千人の人達が避難されています。(2018.12月現在)

では、水がどのように汚染水になるのか、確認してみましょう。

 

ここでいう汚染水とは、放射性物質が混じった水のことです。

福島県県庁が作成しているHPから抜粋します。

福島第一原発の地下には、海側に向かって流れる「地下水」があって、それが、事故を起こした原子炉建屋(1~4号機)に、毎日約150-200トンも流入しているんだ。原子炉建屋内の地下には、高い濃度の汚染源があって、そこに、この「地下水」が流れ込むことで、どんどん汚染水が増えている状況なんだ。

これが、汚染水といわれるものです。

これとは別に、「燃料デブリ」を冷やすために水をかけて、そこから生じた水もまた汚染水です。

「燃料デブリ」とは、原子炉内の燃料が溶け落ち固まったものをいいます。

燃料が溶け落ちたのは、建屋で水素爆発が起こったためです。今なお、冷却状態を継続させるために、この作業が続けられています。

 

汚染水の処理方法

汚染された水は、どうやって処理されているのでしょうか。

その前に確認しておきたいのが、福島第一原発では『汚染水対策の三原則』というものを決めているという点です。

  1. 汚染源を取り除く
  2. 汚染源に水を近づけない
  3. 汚染水を漏らさない

地下水が汚染源に触れないように、まず汚染源を取り除くこと(多核種除去設備など)、次に地下水が汚染源に近づけないようにすること(地下水バイパス・凍土遮水壁)、更にはやむなく汚染してしまった水を漏らさないようにすること(海側遮水壁、水ガラスによる地盤改良)です。

福島第一原発では、シルトフェンス(カーテン状の仕切り)や地盤に薬液を注入して土の壁を造ったりして、この汚染水を漏らさないようにしています。

また、汚染水を浄化するための専用装置でも取り除けない汚染水は、タンクを設置し、そこに貯蔵しています。

福島第一原発・汚染水タンク

経済産業省資源エネルギー庁によれば、2014年5月には1日あたり約540トンの汚染水が発生していましたが、2018年度現在、1日あたり約170トンに減ってきています。

汚染水の現状と今後

汚染水を貯めたタンクの状況を東京新聞が伝えています。

【東京新聞 2019.3.31】

福島第一構内に目を移せば、時間的余裕はそれほどない。立ち並ぶ約960基の巨大タンクに、トリチウムなどを含む水110万トン超を保管。事故直後に比べて汚染水の発生量は減ったが、浄化処理後に保管する必要のある水が今後も年間5万~10万トン新たに出る。

東電は2020年末までに137万トン分のタンクを確保する計画だが、早ければ2年程度で容量が限界に達する。

汚染水は、『ALPS(多核種除去設備)』という除去設備を使って、浄化処理がおこなわれます。

このALPSを用いると、62種類の放射性物質を取り除くことが可能です。

ただし、ALPSでも除去しきれない物質があり、それがトリチウムで、現在も巨大タンクに貯蔵させざるをえない状況なのです。

では、これからも排出し続ける汚染水を、今後どのように処理していくのでしょうか。

2019年8月に、トリチウムを含む汚染水の処分を検討する有識者会議が開かれました。

【東京新聞 2019.8.10】

東京電力福島第一原発で汚染水の浄化処理後も残るトリチウムなどの放射性物質を含む水の処分を検討する政府の有識者会議が8月9日、東京都内であり、水の長期保管が初めて議題となった。

東電は敷地内の保管継続は困難という理由を列挙。だが、委員から東電の資料や説明が不十分と批判があり、7カ月ぶりに再開した会議は議論はほとんど進まず終わった。次回の開催時期も決まっていない。

福島第一原発の敷地内に、タンクを新しく設置することは難しいと、東電は言っています。

では、トリチウムを含んだ汚染水を、今後どうしていけば良いのでしょうか。

経済産業省の小委員会では、数年前から「薄めて海に流す」「水蒸気にして大気中に出す」などの5つの処分法について議論しています。

トリチウムは人体への影響が比較的小さいとされているので、他国の原発では管理された状態で希釈して海に放出しています。

ではなぜ福島第一原発で、同様の処理がおこなわれないかといえば、海洋放出で処分した場合、海産物に対する風評被害が恐いからです。

海水への影響

トリチウムは、水素の仲間で、弱い放射線を出す物質です。

自然界にも存在し、大気中の水蒸気・雨水・海水・水道水にも含まれています。

全国の原子力発電所からは、運転基準に基づく基準内のトリチウムを含む水が、40年以上にわたって排出されていましたが、今まで健康や海産物への影響は確認されていません。

これは日本に限ったことではなく、イギリスやフランス、カナダでも同じように、トリチウムを海に放出しています。

以下のグラフは、国別のトリチウムを海に放出している量を表したものです。

 

海洋生物環境研究所・トリチウム海域放出量

 

要するに、原発のある国では当たり前に海へ放出しているトリチウムを、レベル7の事故をおこした福島第一原発では、海に流せない雰囲気になってしまっているということです。

政府の責任

韓国がこの機会とばかりに、福島第一原発の汚染水を問題にしてきたからといって、韓国に対して批判ばかりはできません。

そもそも福島第一原発の事故を、チェルノブイリ原発と同じレベル7(国際原子力事象評価尺度)に引き上げたのは、日本政府です。

民主党の菅直人政権の時に福島第一原発事故がおこり、当初はレベル5としていたものを、1ヵ月後にレベル7にしてしまったのです。

それが自民党の安部政権になっても、変更されていません。

チェルノブイリ原発事故では、発表されただけでも3ヵ月以内に、放射線によって28人が亡くなっています。

それに対して福島第一原発事故では、放射線が原因で亡くなられた人は、1人もいません。(地震・事故の影響で関連死した人はいます)

また、福島第一原発で放出された放射性物質の量も、チェルノブイリのおよそ10分の1といわれています。

たしかにレベル7が、「放射性物質の重大な外部放出:ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上の放射性物質の外部放出」と「原子炉や放射性物質障壁が壊滅、再建不能」という基準ですので、日本政府の判断は、やむを得ないということもできます。

しかし、レベル7以上がない国際原子力事象評価尺度だからといって、チェルノブイリ原発と福島第一原発が同じレベル枠でいいのでしょうか。

日本政府は、「理解してくれる人(国)はしてくれる」というスタンスではなく、国内外にもっときめ細かく幅広く、福島第一原発の状況を情報発信し、安心安全をアピールしていってほしいと思います。

そうでないと、韓国のように、政治利用しようとする声が大きい(宣伝・アピール)国に、情報戦で負けてしまいます。


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