ヘイトスピーチ規制法と川崎市の条例をチェック 言葉の定義や罰則も確認しておこう

デモヘイトスピーチ 法律・行政関連

何となく定着しつつある『ヘイトスピーチ』という言葉があります。

日本語にそのまま訳せば、『hate speech』=『憎悪の言葉・憎悪表現』という意味です。

weblio辞書には、こう書いてあります。

「特定の人種や国籍、主義や思想、性的指向や身体的特徴、あるいは社会的地位などにより特徴づけられる人々に対する、主観的で一方的な憎悪や敵意に基づく差別的・侮辱的かつ攻撃的・排斥的な言動。」

weblio辞書

辞書の説明と直訳した言葉とでは、だいぶ意味合いが異なっています。

こういう定義があいまいな言葉は、社会に混乱をまねきます。

少し古い記事ですが、以下の記事を見てください。

【J-CASTニュース 2016.5.25】
特定の民族や人種に対するヘイトスピーチ(憎悪表現)解消に向けた推進法が2016年5月24日、衆院本会議で可決、成立した。主に在日朝鮮・韓国人へのヘイトスピーチを念頭に置いている。

成立した法律はヘイトスピーチの解消を目指す理念法で、国や地方自治体に対して相談体制の整備や啓発活動など、必要な対応に取り組むことを求めている。ただし、憲法で保障している表現の自由との兼ね合いで、禁止規定や罰則は盛り込まなかった。

2016年に、ヘイトスピーチに関係する法律ができたことを伝える記事です。

記事中の“主に在日朝鮮・韓国人へのヘイトスピーチを念頭に置いている”という点が一つのポイントかと思います。


ヘイトスピーチに関する法律や条例というものは、どういった内容になっているのでしょうか?

法律ができる過程やその意義についても調べてみます。

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ヘイトスピーチ対策法の正式名称

マスメディアでは、ヘイトスピーチ対策法であるとか、ヘイトスピーチ解消法であると伝えています。

ヘイトスピーチ対策法の正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」です。

この法律は “本邦外出身者” 、つまり外国出身者を対象につくられた法律ということになります。


冒頭で、weblio辞書に書かれたヘイトスピーチの意味を載せました。

その中の “特定の人種や国籍” だけを対象に、この法律を作ったのであれば、ヘイトスピーチという言葉には当てはまりません。

にもかかわらず、なぜこの法律に対して、ヘイトスピーチをからめて論じるのでしょうか?


マスメディアが先導したのかなと思って調べてみると、何と法務省のHPにもヘイトスピーチという言葉がたくさん出てきます。

  <法務省『ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動』

しかも法務省では、この法律のことを『いわゆるヘイトスピーチ解消法』と書いています。

ということは、日本政府としてヘイトスピーチという言葉は、“外国人への憎悪の言動” だと、完全に定義付けているということになります。

世に知られるようなったヘイトスピーチ

『ヘイトスピーチ』が注目されたのは、「在日特権を許さない市民の会」が、在日韓国人に対しておこなったデモによります。

デモで発せられた言葉が、聞くに堪えない差別的なものであるとして、『ヘイトスピーチ』という言葉に光があてられました。(前々から、この言葉自体はありました)

何かの問題提起をする際には、一つの象徴的な言葉をかかげて宣伝すると、イメージがわき、人の印象にも残りやすいです。

「在日特権を許さない市民の会」に対抗する人達が、この言葉を前面に立てて、運動を展開してきたのでしょう。


2015年頃、集団的自衛権の関連法案に対して、『戦争法案』とレッテル貼りしたのが、よい例です。

マスメディアや野党は、頻繁にこの言葉を使いました。

この時の集団的自衛権の関連法案反対デモ集会では、法政大学の山口二郎教授が「安倍に言いたい、お前は人間じゃない。たたっ斬ってやる」(動画あり)と叫んでいました。

これが大学教授です。(悲)


このような憎しみを込めた言葉は、『ヘイトスピーチ』といっても私は良いと思いますが、今まで見てきた内容に当てはめると、そうではないと言われてしまいます。

ヘイトスピーチで本質論が見えなくなる

在日特権を許さない市民の会の主張をHPでみてみると、

在特会概要:在特会とは、在日特権を廃止するために活動する愛国市民団体です。私たちは在日特権の根幹である入管特例法を廃止する事を目的に、日々活動しております。

【会則】(目的)本会は在日韓国人及び在日朝鮮人(以下、両者を「在日」という)の問題を広く一般に提起し、在日を特権的に扱う、いわゆる在日特権を廃止する事を目的とする。

在特会公式サイト

と書かれています。

要するに、『特別永住者』とされた在日朝鮮人等への特別な権利を認めるのはおかしいというものです。

この主張には、賛否両論あっていいと思います。 

ただ問題は、それに対して差別的な表現や侮蔑的な言葉を発することです。


せっかくの問題提起も、差別的な表現や侮蔑的な言葉を用いたことによって台無しにしてしまう可能性があります。

可能性というか、すでにこういう法律ができるような状況になってしまいました。

逆に、「差別的な発言をするひどい人達」と話をすり替えられて、在日特権を許さない市民の会が主張する本質的議論が、できなくなっています。 

感情的な言動は、あまり良い結果を生まないという事例となってしまいました。

ヘイトスピーチ対策法の抜粋

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」について、その内容を確認してみます。

<目的>
第一条 この法律は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、その解消に向けた取組について、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進することを目的とする。

『ヘイトスピーチ対策法』

この法律では、具体的な規制や罰則について特に定めていません。
いわゆる理念法という位置付けです。

第四条
2 地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じ、本邦外出身者に対する不当な差別的言動に関する相談に的確に応ずるとともに、これに関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、必要な体制を整備するよう努めるものとする。

『ヘイトスピーチ対策法』

後で、川崎市の事例に触れますが、『当該地域の実情に応じ~これに関する紛争の防止又は解決を図る』の文言により、条例が作られることになります。


以前、健康増進法が制定された時、第25条に受動喫煙に関する項目がありました。 

そこには以下の文言が書かれていました。

「受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」

健康増進法

それをもとにして、神奈川県では早速、『神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例』をつくりました。

ヘイトスピーチ VS 憎悪表現

ヘイトスピーチをする団体と、それを糾弾する『市民』とのやり取りが、インターネット上に動画でアップされています。 

これを見るかぎり、どっちもどっちという印象があります。 
お互いが、汚い言葉でののしり合い、恫喝しています。


2016年6月に川崎で行われようとしたデモの動画には、デモ隊・反対『市民』・多数の警察が映し出され、異常空間がひろがります。 

結局、デモは中止になりました。

双方が動画をアップしているので、YouTubeで『ヘイトスピーチ 川崎』を検索すれば様子がわかります。

虚しさで、リンクを貼るきにもなりません。

以下は、法律制定後に行われようとしたデモに対する記事ですが、結果的にデモはおこなわれませんでした。

【神奈川新聞 2016.5.31】
在日コリアンの殺害までをあおるヘイトスピーチ(差別扇動表現)を繰り返している男性が新たなデモの開催を予告している問題で、川崎市は男性が集会とデモの集合場所として申請している公園の利用を認めないことを決め、男性に通知したと31日、発表した。

過去の言動から不当な差別的言動が行われる蓋然(がいぜん)性が高いとみて、ヘイトスピーチ解消法の趣旨を踏まえ、市都市公園条例に基づき判断した。

この時は、デモ前の段階でしたので、まだヘイトスピーチをしたわけではありません。
それでも川崎市では、待ったをかけました。

法律制定後、(たぶん)初となる集会でしたので、その言動を確認してから、処置を取った方が良かったのではないかという気がします。

行政サイドが公園の使用許可をだす際、しっかりと警告を与えて、それでもヘイトスピーチを行ったなら、次回からは徹底的に対応処置をとったらよいでしょう。


いずれにしても現状は、憎しみが憎しみを生み出し、やったらやり返すのスパイラル状態といえます。 

ただの弱者対強者の構図でないことは、今までのデモの様子を見ればわかります。

問題の本質に踏み込んだ議論・対処が必要でしょうが、簡単なことではないと感じます。

川崎市の条例

3年以上かけて、2019年に川崎市で条例が作られました。

【朝日新聞DIGITAL 2019.12.12】
外国にルーツがある市民らを標的にしたヘイトスピーチ(憎悪表現)に刑事罰を科す、全国で初めての条例を川崎市がつくった。12日に開かれた定例市議会本会議で可決、成立した。

差別的な言動を繰り返すと、刑事裁判を経て最高50万円の罰金が科される。同様の条例づくりに取り組む全国の自治体のモデルになると注目されている。

条例の正式名称は、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」です。

条例では冒頭に、「川崎市は、全ての市民が不当な差別を受けることなく、個人として尊重され、生き生きと暮らすことができる人権尊重のまちづくりを推進していくため、この条例を制定する。 」としています。

これを読むと、すべての不当な差別に対して作られた条例のように感じられますが、条例を読み進めるとそうでないことがわかります。

第11条  市は、法第4条第2項の規定に基づき、市の実情に応じた施策を講ずることにより、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消を図るものとする。

川崎市人権条例

第11条からがいよいよ本題ともいえる、“本邦外出身者に対する不当な差別的言動” に対する内容になります。

そこには、刑事罰も記されています。
長々引用してもわかりずらいので、東京新聞がまとめた刑事罰への手順のイラストを貼らせてもらいます。


違反すると、名前や住所も公表されるというのです。

更には、罰金です。

第23条  第14条第1項の規定による市長の命令に違反した者は、500,000円以下の罰金に処する。

川崎市人権条例

条例に一貫して記されているのが、『不当な差別』という言葉です。

第2条
(1) 不当な差別  
人種、国籍、民族、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、出身、障害その他の事由を理由とする不当な差別をいう。

川崎市人権条例

ようは、『不当な差別』をしなければ良いのですが、何が“不当”なのか、そうでないのかという問題が必ず出てきます。


「在日特権を許さない市民の会」が主張する、“在日特権を許さないこと” のための秩序だった言動であれば、問題はないと思います。

セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)に対しては、受けた方がそう感じたらそれはもうセクハラだと、よく言われます。

ヘイトスピーチも、セクハラと同様な受けとめ方をされているところがありますので、言葉選びや言い方、表現方法には、十分気をつける必要があります。


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