INF(中距離核戦力)全廃条約とは? ロシアの違反ってどいうこと

ロシア・プーチン 政治・経済関連

トランプ大統領が、ロシアと結んでいたINF全廃条約から、撤退することを検討していくという報道が流れました。

【読売新聞 2018.10.20】
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)などは19日、トランプ米政権がロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約からの撤退を検討していると報じた。トランプ大統領が近く判断を下す見通しだという。

同紙によると、ロシアによる条約違反が続いていることや、西太平洋で中距離ミサイルの配備を拡大している中国に対抗するうえで条約が障害となっていることが理由とされる。

今回は、INF(中距離核戦力)全廃条約の内容確認と、ロシアが米国から指摘された違反について調べてみます。

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INF全廃条約とは?

INF全廃条約は、射程500~5500㎞の地上発射型中距離ミサイルの全廃を目的とする条約です。

1987年12月8日に、米国とソ連(現ロシア)の2カ国で調印されました。

当時の両国のトップは、米国のロナルド・レーガン大統領とソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長でした。

この条約批准の背景には、ゴルバチョフ政権にとってソ連経済の立て直しのために、大幅な軍縮が不可欠だったという点があげられます。

米ソ両国はINF全廃条約に従い、総数2600基を超えるミサイルを、1991年6月までに破棄することになりました。

この廃棄数は、両国の核兵器全体からすると10%にも満たない数でしたが、核兵器削減の条約としては歴史上初めてのことで、画期的な出来事といえます。

歴史が示すように、その後、ソ連の解体、東欧諸国の民主化など、東西の冷戦が終焉へと向かっていきます。

ロシアの条約違反か

トランプ大統領の発言は突然出てきたものではありません。

マスメディアでは、「またトランプが突然、△△からの離脱を言い始めた」的に報道をしがちですので、受取る側もそう捉えてしまいがちです。

【毎日新聞 2017.12.9】
米ソ両国が東西冷戦中の1987年に署名した中距離核戦力(INF)全廃条約から30年を迎えた8日、米国務省はロシアが条約に違反して中距離巡航ミサイルの開発・実験・配備を続けていると批判し、通常弾頭型の中距離ミサイルの研究開発を含めた対抗措置を検討すると通告した。

この通告に対して、当然ロシアは「米国の根拠のない非難」と反発していました。2017年の年末のできごとです。

米国が具体的に指摘したのは、ロシアが、地上発射型の新型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したという点です。

ロシアは、新型巡航ミサイル実戦配備の前に、実験をおこなっていたようですが、その時期はまだオバマ政権の時、2014年でした。

【産経ニュース 2018.2.15】
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は14日、ロシアが地上発射型の新型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したと報じた。

SSC8をめぐっては、オバマ政権がミサイルの実験段階からロシアにINF条約違反だと懸念を表明してきたが、ロシアはこれを無視し、実用化を進めてきた。

同紙が米高官の話として伝えたところでは、ロシアはSSC8を運用する2大隊を編成。 それぞれの大隊には6発前後のSSC8を搭載できる自走式ミサイル発射車両4台が配備されているとしている。

前オバマ政権の時からの問題が、ここにきて更に表面化してきたということです。

アメリカも違反?

ただし、ロシアにも言い分があります。

ロシアはアメリカが展開するミサイル防衛システムこそが条約違反だと主張していました。

【CNN 2017.12.29】
ロシアは複数の米国製迎撃システムに懸念を示し、これらのシステムにもミサイル発射能力があると主張。これはロシアとの間で30年前に調印した中距離核戦力(INF)全廃条約違反に当たるとの認識を示した。

ザハロワ報道官は、「こうしたシステムは全てが、あらゆる種類のミサイルに使用できる万能型ミサイル発射装置であることを念頭に置く必要がある。つまり、INF条約が再び破られたということであり、我々は日本を本件における共犯者と見なす」と語った。

『迎撃』という迎え撃つシステムは、いつでも攻撃用に転換できると、ロシアは言っています。

たしかにその通りです。

日本も共犯だと、軽く脅しをかけています。

米国・もう一つの目的

冒頭で紹介した読売新聞の記事に書かれているように、米国にとっては、『中国に対抗するうえで条約が障害』という点も、大きな意味を持っています。

見てきたように、INF全廃条約はあくまで、米国とロシアが結んだ条約であって、中国は関係ありません。

【産経新聞 2018.10.21】

中国は西太平洋地域での有事に際し、米軍の進出を遅らせ、作戦領域での行動を妨害する「接近拒否・領域拒否(A2/AD)」戦略に基づき、米軍の作戦基地や空母を無力化させるため、爆撃機や潜水艦、対艦弾道ミサイル(ASBM)の戦力拡充を急速に進めている。

しかし、INF条約は米国が射程500~5500キロの地上発射型弾道ミサイルや巡航ミサイルを保有するのを禁止。このため米軍は条約が「足かせ」となって中国のA2/AD戦略に対抗する兵器を配備できない状態が続いていた。

米国は夏以降、中国に経済戦争をしかけ、少数民族弾圧問題も指摘してきました。

そして今度はINF全廃条約を破棄して、ロシアとの関係がギクシャクしてまでも、中距離核戦力を復活させて、中国を威嚇するつもりのようです。

本気のアメリカが、今後も中国を確実に追いつめていくのでしょう。


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