現在、『受動喫煙防止法』という法律はまだありません。
法律自体がないので、当たり前のことですが、罰則もありません。
2002年に健康増進法が制定され、その第25条に、
「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店、その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」
と記されています。
この文言を受けて地方公共団体で初めて、受動喫煙に関する条例を作ったのが、神奈川県でした。
それが「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」です。
神奈川県の受動喫煙防止条例
この条例では、公共的施設を2種類にわけて、禁煙措置必須の施設(病院、映画館など)と禁煙または分煙を選択する施設(飲食店、カラオケBなど)とに分けています。
罰則ももうけ、喫煙禁止区域でタバコを吸った場合と、施設管理者が必要な義務(禁煙・分煙)を果たさなかった場合に、罰金の支払いを課しています。
その後には、兵庫県が、「受動喫煙の防止等に関する条例」を制定しました。
神奈川県の条例同様に、罰則もあります。
他の自治体においては、私が調べた限りでは、それ以上の広がりはないようです。(他の自治体でも、健康づくり・ガン対策推進条例として、受動喫煙防止の文言はあります)
千代田区で喫煙取締りの条例
東京都の千代田区では、駅周辺や人通りの多い路上での喫煙を禁止しています。
この条例は、受動喫煙防止の動きとは少し別な流れで決められたものになります。
千代田区では、環境美化や歩きタバコの危険性から、「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」を制定しました。
2002年(平成14年)6月のことですから、健康増進法ができる前のことになります。
罰則としては、路上における喫煙者に対して、2千円の過料処分を適用しています。 全国初の『路上喫煙での罰則適用条例』として大きく注目されました。
千代田区のHPを見てみると、多い時では1年間で1万件、最近は7千件前後が過料処分になっています。
1日に約20件は多いのか、少ないのか…。
処分を受ける地区では、圧倒的に秋葉原地区や神田地区が多いので、地方から出てきた事情を知らない人達が、餌食(?)になっているのかもしれません。 ※(平成22年4月1日から路上禁煙地区が千代田区全域となりました)
全国各地で路上喫煙禁止条例制定
千代田区がこの条例を制定した後には、全国で70以上の自治体が、罰則付きの路上喫煙禁止条例をつくっています。
こちらの条例が広がったのは、その必要性とは別に、対策にお金がかからないという点が大きいのではないかと思います。
「路上では吸ってはダメだよ」というだけですから。
神奈川県が制定したような条例であれば、施設の禁煙・分煙となると、その設備費用がかかります。
更には、飲食関係のお店にとって、喫煙者を除外するような禁煙・分煙対応は、お店の死活問題にかかわってきます。
地方議員にとって、町会(商店会)や飲食業界の意見を無視できないのは、当然といえば当然です。
やはり、受動喫煙防止法ができないことには、全国的に広がっていくことは難しいのではないでしょうか。
マンションでの受動喫煙
受動喫煙という話になると、マンションでのタバコ問題もよく話題になります。
マンションでのタバコ被害というのは、ベランダやバルコニーで喫煙している階下や近隣の住人の煙が、室内に入ってきたり、洗濯物に匂いが付着してしまい、迷惑を被ることです。
ちなみに我が家でもたまに、階下の住人がベランダで喫煙していることがあります。
窓を開けていると、その煙が多少気になるかなという程度ですが、そんなに喫煙の頻度が多くないので、我慢するという感じまではいきません。
私は、非喫煙者なので、あまりタバコの匂いは好きではないです。洗濯物にタバコの匂いがついてしまったら最悪です。
受動喫煙被害での裁判
以下に紹介する記事は、マンションでのタバコ被害による裁判のものです。
【中日新聞 2012.12.28】
マンションの下の階に住む男性(61)がベランダで吸うたばこの煙で体調を崩したとして、名古屋市瑞穂区の女性(74)が男性に150万円を求めた訴訟で、名古屋地裁(堀内照美裁判官)は、近隣住民に配慮しない喫煙の違法性を認め、精神的な損害への慰謝料として5万円の支払いを命じた。
この女性には、ぜんそくの持病がありました。
タバコの煙に悩んだ女性は、階下の男性にベランダでの喫煙しないよう依頼しますが、男性は受け入れてくれなかったので、裁判になったわけです。
マンションの規則でベランダでの喫煙は禁じられていないと、男性側は主張していました。
この新聞記事では、女性がどのような態度や口調で、男性に喫煙を止めてくれるようお願いしたのかわかりません。
女性の口調が激しく、男性が反発して意固地なったのか、はたまた男性がまったく聞く耳を持たないわがまま男だったのか。
いずれにしても、マンションでのタバコ被害を認めた裁判として、注目されました。
管理規約での喫煙取り決め
この新聞記事のマンションは、管理規約にベランダでの喫煙が禁止されていなかったので、問題が大きくなりました。
もしあなたが、階下や近隣の住人のベランダでの喫煙で、迷惑を感じているようなら、まず『使用細則』にベランダの共用部分における喫煙に関する取り決めがあるか、確認することをおすすめします。
マンションや集合住宅では、共同生活を円滑にするために、通常、管理規約が決められています。
その規約をより詳細に規定したものが、使用細則です。
取り決めに、ベランダでの喫煙禁止がうたってあれば、マンションの所有者や管理組合から働きかけて、問題の解決が可能でしょう。
それがない場合は、まずは話し合いをして、現状を相手に訴えることから始めないといけません。 それでも相手が理解してくれなければ、裁判という段階に進まざるを得ないでしょう。
名古屋での裁判では、社会通念上我慢できる限度を超えていたという判断により、原告側が勝訴しました。
どの程度のタバコの被害をこうむっているのか、その内容によっては、裁判で勝てるかもしれません。
本当は、話し合いで解決できるのであれば、それに越したことはないのですけれど。
受動喫煙防止法制定への追い風
そんな状況の中、法律制定に対する追い風らしきものが吹いています。 何かと言えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックです。
2016年に入って、『受動喫煙防止対策強化検討チーム』が結成されました。
上記の資料にみてみると、日本の受動喫煙に対する取組みは、過去のオリンピック開催国と比較しても、非常に遅れていると結論づけています。
『世界の目』を非常に気にする日本ですから、これを機会に、一気に受動喫煙防止法制定へと進む可能性が大だと予想します。
まして、今回東京都知事となったのは、小池百合子氏です。
もちろん彼女自身、タバコは吸いません。
小池都知事は2010年、自民党の総務会長になりました。
その際、2011年2月から、総務会を全面禁煙にしたのです。
『分煙』や『受動喫煙』が色々言われていたにも関わらず、その当時まだ自民党内の会議では、喫煙が当たり前でした。それを打ち破った形になったわけです。
議員の中には、けっこう愛煙家もいました。
総務会では、「何人かの議員は無言で耐えていた」と、小池さんは述べています。
東京都知事なって、受動喫煙に対する条例制定まで話を進めることができるのか?
議員や年配者の中には、まだまだ愛煙家も多いと思いますので、抵抗も大きいでしょう。小池都知事の意思がどういった形であらわされるのか、注目です。
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