緊急事態条項についての議論はいつから始まるのか 自民党草案や立憲民主党の考えを確認

国会議事堂① 法律・行政関連

新型コロナウイルスの感染爆発を防ぐため、安倍首相が緊急事態宣言を発出しました。

しかし、緊急事態宣言をだしても、そこには強制力がほとんどなく、外出を禁止することも、国民の行動を規制することもできませんでした。

これをやむを得ないと考えるのか、それとも緊急事態には強制できるようにした方が良いと考えるのか、人によって考え方は違ってくるでしょう。

ただし、民主国家ですから議論は必要です。

そのカギとなるのが、日本国憲法に「緊急事態条項」を盛り込むのかどうかという議論です。


緊急事態条項に対して、自民党や立憲民主党はどのような考えを持っているのでしょうか。

そして今後どのように話が進められていくのか、確認してみたいと思います。

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今までの緊急事態条項議論

以前から、「緊急事態が起こったらどうする」という主張はおこなわれていました。

なぜなら、日本国憲法に緊急事態条項が書かれていないからです。国家緊急権とも表現されます。

緊急事態時は非常時ですから、政府の権限を強めることが必須となります。

ここを嫌う人達は、議論自体をしたがりません。事態が起こった時に、新法制定や憲法解釈の変更で対処すれば良いと、考えているのです。

ちなみ今回の新型コロナウイルス問題では、2013年に施行された『新型インフルエンザ等対策特別措置法』を、今年の3月13日に改正して対応することになりました。

今までの国会において、緊急事態条項に関する、党をあげての議論はほとんど成されていないのが現状です。


衆参両議会には憲法審査会があります。

憲法調査会がつくられたのは2000年になってからで、後の2007年に憲法審査会が後継組織となりました。

衆議院憲法審査会規程の第一条(設置の趣旨)には、こう書かれています。

第一条 憲法審査会は、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、日本国憲法の改正案の原案(以下「憲法改正原案」という。)、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するものとする。

衆議院憲法審査会規程

衆議院憲法審査会は50名、参議院憲法審査会には45名の委員がいて、各会派の所属議員の比率で人数が決まっています。

憲法審査会は国会の本会議や委員会と違い、与野党議員がある程度自由に議論ができる場です。

しかし結局は、与党主導の改憲を嫌う少数派の野党の声に影響され、憲法審査会が開かれても、1年以上にわたって自由討議がされないこともあります。

更には、緊急事態条項の件に関わらず、日本国憲法を改正すること自体が、高いハードルになっていることも関係しています。

【日本国憲法】
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

日本国憲法

衆議院でも参議院でもそれぞれ総議員の2/3以上が賛成しないと、国民に憲法改正案を提案できません。

憲法改憲勢力が2/3に満たないと、国会審議もすすまないわけですから、政権与党としては、その前段階の憲法審査会を重要視しないといけないわけです。

自民党憲法改正草案

自由民主党は、『自主憲法制定』を党是として、1955年に発足した政党です。しかし長らく、憲法改正の議論すら国会で、ほとんどしてきませんでした。

先ほど、日本国憲法96条を載せましたが、そこには改正に際して「国民に提案してその承認を経なければならない」と書かれています。

であるならば、結党から早いうちに、国民がどのように投票するのか決めておかなければなりませんが、国民投票法(日本国憲法の改正手続に関する法律)が公布されたのは、2007年5月第一次安倍内閣の時でした。


その自民党が本腰を入れて策定したのが、日本国憲法改正草案です。

2012年(平成24年)4月につくられた草案で、第九章・緊急事態として第98条(緊急事態の宣言)と99条(緊急事態の宣言の効果)を盛り込んでいます。

皮肉にもこの時は民主党が政権をとっていて、自民党が3年3か月の間、下野していた時期でした。

自民党が野党になり、結党の精神にたち帰ろうと策定されたのが、憲法改正草案だったのです。


以下が、第98条と第99条です。

第九十八条

内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。

3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。

4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

自民党日本国憲法改正草案

第九十九条

緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。

3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

自民党日本国憲法改正草案

立憲民主党の考え

では、野党第一党の立憲民主党は、緊急事態条項についてどのような考えを持っているのでしょうか。

まず、立憲民主党の枝野幸男代表は、2018年8月6日におこなわれたインタビューで、自民党の緊急事態条項案についてどう思うかと問われ、「議論に値しない。以上です。」と答えています。

立憲民主党・枝野&福山

その後、自民党自体がそのままで憲法改正案を推し進めることはないという認識と、出してきたら国民投票で否決すると言っています。

また今年に入って、今回の新型コロナウイルスで発出された緊急事態宣言で、十分な強制力が伴う措置を取れなかったことに対する認識を、メディアではこう伝えています。

【共同通信 2020.5.3】
立憲民主党の枝野幸男代表は3日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため緊急事態条項を新設する憲法改正は不要との見解を表明した。

私権制限のため必要だとの指摘に対し、党ホームページ上の動画で「明らかな事実誤認だ。(現行)憲法の制約で、やるべきことができないということは全くない」と批判した。

国民の権利は憲法上「公共の福祉」により制約を受けると説明。災害対策基本法に強い私権制限が規定されているとして、新型コロナ対応への適用を提案した。

共同通信

要するに、ウイルス感染問題にしても災害対応においても、現行の法律で十分対応ができるので、日本国憲法を改正して緊急事態に備える必要はないという考えです。

現在、立憲民主党の衆議院憲法審査会会長代理を務めている山花郁夫議員が、HPでわかりやすく見解を述べています。

一般に憲法上の緊急事態条項というのは、一時的に立憲主義を停止する規定をいいます。
具体的には、議会の関与なしに行政に委ねる、つまり、国会の議決なしに政令で緊急事態に対する対応ができることを意味します。

もし、冒頭にあげたような対応が何としても必要で、法律を作ろうとしても憲法が邪魔をしている、というのであれば一つの考え方かもしれません。

しかし、憲法は22条、29条で経済的自由についてはあえて「公共の福祉」による制約の可能性があることを明記していることから、その内容いかんにもよりますが、法律で私権制限を行うことを憲法が禁じているわけではありません。

ましてや、感染症対策です、憲法25条は1項の生存権が有名ですが、2項には「国は、すべての生活部面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」としています。

憲法が現下の情勢においても私権制限を禁じているわけではありません。
したがって、私権制限が必要だから緊急事態条項が必要であるというのは論理の飛躍があります。

山花郁夫衆議院議員HP

以上の事から、立憲民主党では、憲法を改正して緊急事態条項を入れる必要はなく、緊急事態に対しては、現行の法律で十分対処できると考えていることがわかります。

   『立憲民主党の政党支持率の推移を確認

緊急事態条項・賛否両論のベース

緊急事態条項に対する自民党や維新の会と、立憲民主党や共産党などの野党の違いは何なのでしょうか。

もう一度、自民党の憲法改正草案の第98条の冒頭箇所を確認してみましょう。

第九十八条  内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において~

自民党日本国憲法改正草案

要は両者の違いは、『我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱』、この部分を想定する必要性を感じるか感じないかの差なのです。

中国や北朝鮮などの脅威から日本を守るために、法的備えをしておく必要があると考えれば、緊急事態条項を憲法に盛り込むべきとなります。

逆に、中国や北朝鮮は直接の脅威ではなく、日本が法的な準備することで、相手を刺激し紛争を招くきっかけを作ってしまうと考えれば、現状の憲法を護ろうとします。


両者に歩み寄りを期待しても仕方がありませんが、そろそろ国会でまっとうな議論をしてもらいたいと思います。

その上で、客観的な事実を基に、国民が緊急事態条項の有無の判断をしていくしかありません。

   『領海侵犯の定義は何か?

いつから議論されるか

緊急事態が起こらないように努力することと、もし起こったらどのように対処するか、法整備しておく事は別問題です。

まずは、衆参両院の憲法審査会が開かれ、有意義な議論がなされないことには始まりません。


立憲民主党の枝野代表は、2018年10月のJapan In-depthのインタビューで、「自民党が改憲案を憲法審査会に提出した場合、審議に応じるつもりか」と聞かれ、「自民党の出し方次第」と答えています。

また、「法律では解決出来ず、憲法を改正するしか手段が無い時、初めて改憲の段階に入るべき」と話しています。

結局、本音は先延ばしにしたいということです。


昨年の11月、久しぶりに自由討議がおこなわれた衆議院憲法審査会後の各党の考えを、以下の記事が伝えています。

【日本経済新聞 2019.11.14】
討議の中で自民党が憲法改正論議の進展を呼びかけ、国民民主党の奥野総一郎氏は「急いで改憲案をつくる必要があるのか」と指摘した。立憲民主党の山花郁夫氏も党独自の改憲案を示すのに慎重姿勢を示した。

日本経済新聞

共産党の志位和夫委員長は、「憲法審査会を動かせば、力ずくで発議をしてくる危険性があるので、動かすことには反対だ」と言っています。

改憲を望む日本維新の会の馬場幹事長は、「今の国会中に各党が憲法改正項目を出すところくらいまで進んでほしい」と言っていましたが、結局そこまで進みませんでした。

このように、日本維新の会以外の野党は、議論を進めようという気がないことがわかります。


新型コロナウイルスの影響で、通常国会中の進展は、まず考えられません。議論が進む何かきっかけになることがあるとすれば、次の衆議院議員選挙です。

現在の衆議院議員の選挙は、2017年10月22日におこなわれました。

衆議院議員の任期は4年ですが、任期を待たずに解散総選挙がおこなわれるのが当たり前になっています。

安倍自民党総裁の任期は、2021年9月までです。いつどのタイミングで解散総選挙をするのか注目されます。


今回の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言での問題点を争点にして、憲法改正の必要性を訴え解散総選挙をおこなうかもしれません。

ちなみに、現在の衆参両院の与党(自民・公明)と日本維新の会を合わせた全体の比率は、衆議院69.7%、参議院64.1%となっています。(無所属議員等を除く)自民党松本純衆議院議員HP・院内会派所属議員数より算出


今後、第二次・第三次の補正予算をくみ、経済の落ち込みを最低限に抑えて、新型コロナウイルス収束が成されれば、晩秋から年始にかけてのタイミングで解散総選挙をおこなうと、現時点では予想しておきます。


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