参議院選挙が近づいてくると、「参議院は必要か?」という議論が、毎回のように出てきます。
なぜかというと、衆議院とは被選挙権の年齢や議員の任期が違っても、衆議院のコピーと化している参議院に、果たして存在意義があるのかという疑問があるからです。
衆議院選挙に落選した人が、次の参議院選挙に出馬して、当選するというケースもあり、参議院は『衆議院の落選議員の受け皿か!』という批判もあります。
参議院は『良識の府』というとらえ方をされることもあり、衆議院とは一線を画し、党利党略や党派に左右されない存在であってほしいという願望もあるようです。
そうでなければ、何のための二院制かということです。
今回は、参議院の存在意義について、考えてみます。
参議院の概要
まず、参議院の基本的なことを確認してみます。
参議院議員は現在、選挙区146議席と全国比例代表96議席の計242議席で構成されています。(改正公職選挙法により2019年・2022年参院選から3議席×2=6議席増)
被選挙権(立候補できる年齢)は30歳で、任期は6年です。
参議院は、3年ごとに選挙がおこなわれ、総定数の半数が改選されます。
衆議院と違って解散がないので、基本的には6年間、議員の任期をまっとうすることができます。
貴族院
参議院が設立されたのは、1947年5月のことです。
戦前は、衆議院と貴族院の二院制でした。
貴族院については、世界大百科事典からの説明を引用します。
国民代表的性格をほとんどもたない点で,一般の『上院』や戦後の参議院とは根本的に異なる機関である。
その構成は、成年に達した皇族男子と30歳以上の公・侯爵の全員、30歳以上の伯・子・男爵の各5分の1(互選)、〈国家ニ勲労アリ又ハ学識アル者〉から天皇が任命する勅選議員(30歳以上)、および各府県の多額納税者の上位15人から1人を互選する多額納税議員からなり、公・侯・伯・子・男の有爵議員が議員の半数以上を占める定めとなっていた。
要するに、衆議院は選挙で選ばれていましたが、貴族院は、特権階級や高い見識を持つであろうと考えられた人物を選出していたということです。
貴族院は明治維新後の1890年から、敗戦後の1947年5月2日まで存在していました。
議員の多くが終身任期で、議員の総数は、250名から400名程度で推移していました。
二院制の意義
なぜ、明治政府は二院制をとったのでしょうか。
国立国会図書館の『日本国憲法制定過程における二院制諸案』という資料で、田中嘉彦氏はこう書いています。
二院制を採用したのは、 民選議院である衆議院に、 将来、反政府的な勢力が伸張することを警戒し、 貴族院に衆議院を抑制する役割を営ませようとしたためであり、 これは帝国憲法の制定過程における当初からの一貫した方針に基づくものであった。
これに対して、戦後の日本の議会においても二院制をとることになりました。
戦後すぐに日本政府のもとに設置された憲法問題調査委員会(松本委員会)では、「一院制でも良いのでないか」と考えていたGHQに対して、
1.多くの国が議会の運営に安定性をもたらすため、二院制を採用していること
2.一院制の場合には政権交代により、政府の政策が一方の極から他方の極に移るおそれがあること
3.第二院があれば、政府の政策に安定性と継続性とがもたらされること
を説明し、参議院を設けることになります。
ただし戦前の貴族院と違い、衆議院同様、参議院も選挙で議員を選出することになりました。
現在の参議院議員の選ばれ方は、衆議院議員と大差がありません。
大雑把に言ってしまえば、選挙区割の大きさと、全国比例区で党の名簿非拘束かどうかの違いだけです。(衆議院は名簿一位順で、参議院は得票順で当選が決まる)
もちろん、衆議院と違い参議院は解散がないので、選挙や政局に比較的左右されずに、任期6年を務めることができるという利点はあります。
ただ、党に所属している現状では、党と歩調を合わせざるを得ないということにおいて、衆議院議員とあまり変わりはありません。
今後の参議院はどうなっていくのか
参議院の改革に対しては、“参議院は不要” という考えや、比例ブロックの見直し、自治体首長が参議院議員を兼職できるようにするべきという様々な意見があります。
いずれにしても、このままで良いはずはないのですが、現在の参議院議員の地位が危ぶまれる改革を、国会議員自らが行うことは難しいかもしれません。
ただし、参議院のHPには以下の記載があり、国民からどう見られているかの自覚はあるようです。
選挙のたびごとに参議院の政党化が指摘されるようになり、また、参議院における法案等の審議が二院制の国会審議の中で会期末に集中することから、結果として参議院の審議時間が不足することも多くなり会期末における混乱を招くなど、参議院の在り方に厳しい国民の目が向けられるようになった。(参議院HPより)
やはり参議院は、政党の思惑や政局に左右されない、特定の利益団体の代弁者ではない、そんな国会議員を生み出すシステムにしてほしいと思います。
国会議員は、国の舵取りを任されている重要な存在であることを自覚して、滅私奉公の精神で大局的な判断をし、参議院の改革をおこなってほしいものです。
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