『押し紙』とは、何のことでしょうか?
これは、新聞社が販売店に、配達している新聞以上の部数を買い取らせている新聞のことです。
わかりやすくいうと、本来1000部の新聞が必要な販売店に、強制的に1200部を買取らせるというものです。
『押し紙』はいわゆる、“販売店に押しつけられた新聞紙” のことです。ただし、新聞社側は、この『押し紙』の存在を認めてはいません。
「押し紙」裁判
実際、この押し紙問題では、裁判が行われています。
注目されたのは、読売新聞社が新潮社とジャーナリストの黒薮哲哉氏を訴えた裁判です。
読売新聞社は、週刊新潮に載った黒薮哲哉氏の押し紙記事に対して、名誉を傷つけられたと、訴えをおこしました。

2011年に最高裁では、読売新聞社が勝訴し、「客観的裏付けがない」として、被告側に賠償金の支払いを命じています。
この裁判で興味深い点は、原告側の読売新聞社の宮本友丘専務(当時)が、押し紙の存在は否定したけれども、『積み紙』の存在を主張したところです。
この『積み紙』というのは、販売店自らの意思で注文して残った部数の新聞のことをいうようです。
販売店が、部数目標(ノルマ?)を達成する為か、念のための予備で注文したのかはわかりませんが、要するに販売店側の裁量で発注しているという主張です。
水増しされた発行部数
これは、『押し紙』でも『積み紙』だとしても、結局その新聞の総発行部数は、水増しされている数であるということになります。

ご存知のように、新聞社の利益は新聞の販売料金と広告収入が中心です。
一般社団法人・日本新聞協会によれば、2018年度の新聞社全体の総売上高構成比は、販売収入が57.2%で、広告収入が19.9%になります。
新聞に広告を載せている企業が支払う広告価格は、その新聞の発行部数が、大きくかかわってくることは誰にでも理解できます。
通常、新聞広告料金は、発行部数と何面の紙面でどのサイズかによって、料金設定が違ってきます。
ところがもし発行部数が水増しされているとすれば、偽りの部数設定で、広告料金が決まったことになります。
これはちょっと過激な表現かもしれませんが、数字を誤魔化した“発行部数詐欺”だといわれても仕方ありません。
地方紙でも『押し紙』が問題になっています。
【2015/2/24、さくらフィナンシャルニュース】
京都新聞社の販売店が、配達部数を超える新聞の仕入れを強制されたとして起こしていた裁判が、1月に和解していたことが分かった。
京都新聞社側が店主に和解金、300万円を支払った。裁判を起こしていた店主は、1988年から2店舗を経営していたが、過剰な新聞部数(押し紙)の卸代金を負担できなくなり2011年に自主廃業に追い込まれた。
MEDIA KOKUSYO
買い取りを強いられていた新聞部数は、廃業前には搬入される新聞の2割を超えていた。
この事例でいえば、発行部数の2割が『押し紙』というこです。
減り続ける新聞発行部数
新聞業界では各社とも、年々発行部数が減ってきています。

日本新聞協会が発表した数字では、2019年の一般紙総発行部数は、約3,488万部です。
この数字を見て多いのか少ないのかわかりませんが、2009年は約4,566万部でしたので、単純に10年間で1,000万部以上の部数減ということになります。
<日本新聞協会 新聞の発行部数と世帯数の推移>
インターネットの普及が進む中で、新聞を読まない世代が確実に増えています。
現状を把握して、新聞社も少しずつネット配信に軸足をおいていきたいところでしょうが、問題は収入の部分です。
米国の有名な新聞社に、ニューヨークタイムズやワシントンポストがありますが、それぞれの発行部数は、約78万部(デジタル版81万部)と47万部(デジタル版4万部)です。(2012年5月)
※最新情報を見つけられませんでした。紙とデジタル版の割合はもっと変わっているはずです。
それに対して日本の新聞社で最高部数を誇る読売新聞は約811万部、第二位の朝日新聞でも560万部、第三位は毎日新聞の245万部です。(2019年3月現在)
<MEDIA KOKUSYO(2019年3月度のABC部数)より>
日本と米国の主要新聞の発行部数を比較すると、かなりの差があります。(米国は最新状況ではありませんが)
日米では、州の独立性や新聞の歴史など違いはあるでしょうから、米国と単純な比較はできないかもしれませんが、日本の新聞社は巨大化し過ぎなのかもしれません。
ニューヨークタイムズは電子版に力を入れ、発行数では既に印刷版を抜いています。
『押し紙』テレビ報道されない理由
テレビではほとんど、『押し紙』問題が報道されません。
新聞社とテレビ放送局の関係を考えれば、ある面、当然といえば当然です。
歴史的には、新聞→ラジオ→テレビという流れで、情報伝達が発展してきました。
大手新聞社の多くが独自のラジオ中継を始め、その後ラジオ局や新聞社が出資してテレビ局が誕生してきました。
現在、新聞社とテレビ局は別会社ですが、提携会社や協力会社という関係にあります。
それを考えれば、新聞業界の負の部分である『押し紙』問題を、テレビが放送するはずもありません。
日本に限らず、新聞業界にとってまさに現在が過渡期なのでしょうが、『押し紙』問題は放置を許してはいけない問題です。
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