私個人的には、公立の図書館によく出かけます。
ちょっと関心のある本をつまみ読みしたり、調べたいことがある時に手頃に利用できて、とても便利です。
限られたお小遣いの中で購入する本は、月数冊にとどめる必要があるからでもあります。(悲)
その便利な図書館、立地場所の自治体が運営・管理しているものだと思っていましたが、実際は『民営化』がおこなわれているというのです。
『公立図書館の民営化』と聞いてもいま一つピンときません。
これは、どういうことなのでしょうか。
この機会に、調べてみましょう。
公立図書館の民営化
2003年に、地方自治法の改正が行われ、「指定管理者制度」の導入がなされました。
これは、公の施設の管理や運営が、民間の事業者でも行えるようになる制度です。
これは、図書館に限ったことではありません。
【地方自治法】第二百四十四条の二
地方自治法
3 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第二百四十四条の四において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。
この制度の活用によって、地方自治体では施設管理等の経費削減につなげることができます。
また、利用者にとっても民間業者が係わることで、サービス向上になればと考えられています。
果たしてそんなにうまくいくのでしょうか?
現状の公立図書館
公立図書館をまったく利用したことがないという人は少数派だと思いますので、知らない人はいないとは思いますが、公立図書館では、書籍や雑誌、CDを無料で貸し出してくれます。
書籍購入費や人件費、設備管理費などもすべてその自治体が歳出して、利用者は図書館利用に関する費用を負担することはありません。
図書館法には、こう書かれています。
【図書館法】第十七条
図書館法
「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」
財政難を抱える地方自治体にとっては、お荷物的存在になり兼ねない図書館ですので、予算の削減の対象になっても仕方ありません。
私個人的には、公立図書館も登録料やカード発行料として、18歳以上から、年間数百円の徴収を行ってもいいのではないかと考えます。
たぶん多くの人が同意すると思いますが、皆さんはどう思いますか。
話を戻して、民間の事業者がここに参入してどんなメリットがあるのでしょうか?
自治体からは、施設管理・運営費を受取るだけなのでしょうか?
その取り組みがよく取り上げられる、武雄市の図書館の事例をみて確認してみます。
武雄市の図書館
図書館の民間委託で有名なのが、佐賀県武雄市です。
現在、武雄市図書館の指定管理者として、武雄市から運営を任せられているのは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)です。
CCCは、『 TSUTAYA 』や『 Tポイント 』事業で有名な会社です。
武雄市図書館には、TSUTAYAのDVDレンタル店やスターバックスが併設されていて、館内はコーヒー飲食や私語もOKです。(館内の場所にもよると思いますが)
図書館来場者急増
武雄市とCCCの発表によると、2013年度の来場者数は、92万3036人で、直近の通年で比較できる2011年度の来場者数の3.6倍にあたります。
来館者数は、どういったカウントの仕方をしているのか分かりませんが、CCCが管理を始めてから、圧倒的に来場者が増えている事は間違いありません。
武雄市は年間約1億1千万円委託料をCCCに支払っていて、武雄市が直接運営していた時と比較して、およそ1千万円のコスト削減になるそうです。(2017年以降はこども図書館も委託)
図書館民営化の課題
ただ、良い点ばかりではもちろんなく、蔵書の管理手法や選書の偏りなどが問題視されたり、蔵書購入の問題では、市民から住民訴訟を起こされてもいます。
【佐賀新聞 2016.1.15】
佐賀新聞LIVE
武雄市図書館が民間に業務委託し開館した際、蔵書購入で違法な支出があったとして、市民17人が14日、当時の責任者だった樋渡啓祐前市長らに約1,900万円を賠償請求するよう武雄市に求める住民訴訟を佐賀地裁に起こした。
ただし、この裁判は高裁で棄却されました。
自治体の施策に対して住民訴訟がおこなわれるのは、どこの自治体でも珍しいことではないので、その類いの訴訟だったのかもしれません。
【佐賀新聞LIVE 2019.4.20】
佐賀新聞LIVE
武雄市図書館が民間に業務委託し開館した際、蔵書購入で違法な支出があったとして、市民が当時の責任者だった樋渡啓祐前市長らに約1958万円を賠償請求するよう武雄市に求めた住民訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は18日、一審の佐賀地裁判決を支持し、控訴を棄却した。
ここで問題を一つ上げると、図書館の来館者が増えたとしても、指定管理者にとって直接の利益にはならないという事です。
先に図書館法第十七条を紹介したように、来館者から来館料等を徴収することができないからです。
あくまで図書館エリアに集まってきた人達が、図書館以外の店舗でお金を使ってくれなくては利益につながりません。
この武雄市図書館の場合は、 それがスターバックスにあたります。
市自体が特別効率の悪い運営をしていたなら別ですが、図書の購入費や施設運営の費用など、民間が係わったからといって、それほど経費削減できるわけではないでしょう。
となると、悪い言い方をすれば、営利を追求する民間事業者にとって、図書館はあくまで人を集めるための手段にすぎなくなります。
2015年9月の武雄市図書館利用者へのアンケートでは、約85%の人が『満足』と回答しているという記事もありましたので、武雄市民にとって図書館環境が快適になったことは、歓迎すべきことだと思います。
武雄市図書館の指定管理決算
では、CCCが管理を任されている武雄市図書館の決算はどうなっているのでしょうか。
見てわかるように、管理し始めた2013年からずっと赤字が続いていますが、年々赤字額は減っています。
ただし、この指定管理決算に、スターバックス等の利益は含まれていません。
【佐賀新聞LIVE 2019.12.28】
佐賀新聞LIVE
CCCは図書館で書店とコーヒー店「スターバックス」を営業しているが、民業部分の収支は公表していない。
以下のサイトでは、蔦屋書店とスターバックスの売上げをざっくりですが、予想しています。
その売上げ金額は、約2億8千万円としています。
<Soukaku’s HENA-CHOKO Blog>
もろもろの経費を引いた粗利益を考えれば、全体としてもまずまずの黒字になっている可能性大です。
最後に
今回取り上げたCCCのケースは、全国的にみれば目立った取り組みです。
もっと地味なかたちで、指定管理者制度を導入している自治体が多いようです。
また、自治体によっては図書館運営は自らおこない、貸し出しや返却業務などの窓口業務を委託するケースもあります。
人を集めるツールとして図書館を用いないと、図書館法第十七条がある限り、指定管理者としては、効率化と人件費を抑制する方法しか利益を生み出すのは難しいでしょう。
人件費を削減する場合、極力人材の専門性を排除することで、人件費抑制するしかないような気がします。
実際、指定管理から直営に戻した自治体もあります。
民間の営利企業が運営できる図書館もあれば、その地域の文化や歴史を集積していく役割を担った、利益とは無関係の図書館も必要です。
公立図書館運営が試行錯誤をへながら、公共の施設に相応しい運営と、住民へのより良いサービスが実現していくことを願います。
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