結婚適齢期に対しては、「したい時が結婚適齢期」などという言い方をされるようになってから、だいぶ年月が経ちました。
ただ妊娠・出産の適齢期となると、「産みたい時が出産適齢期」とは簡単に言えることではありません。
なぜかといえば、生物学的・医学的な観点から女性にとって最も適した出産の時期があるからです。
今回は、厚生労働省や専門家などの見解を確認しつつ、妊娠・出産適齢期について考えてみましょう。
更に女性のみならず、男性にも生殖機能における適齢期は存在するのか調べてみます。
妊娠・出産適齢期とは
妊娠と出産に適齢期があるということは、誰でも想像がつくと思います。
適齢期とは最も適した期間ということです。
女性の場合個人差はありますが、10~13歳くらいに初潮をむかえ、50歳前後で閉経をむかえます。
物理的には、この期間でなければ女性は妊娠できないわけです。
更にいえば、30歳代後半から閉経までは妊娠可能ではあるものの、色々な問題を抱えやすい年齢です。
後の項目で詳しくみてみますが、高齢での妊娠は流産の確率や胎児の染色体異常が増えてしまい、赤ちゃんが障害を持って生まれてくる可能性が高くなるのです。
男性の生殖機能適齢期
男性の場合、生殖機能の適齢期はあるのでしょうか。
加齢とともに生殖機能が衰えていくことは、何となく予想ができます。
実は男性の生殖機能も年齢と共に精子が老化し、妊娠させる力が低下する(精子の数が減り、運動率が悪くなる)ことがわかってきました。
日本産科婦人科学会では、
「35歳ごろから徐々に精子の質の低下が起こります」
と述べています。
ややもすると不妊の原因は女性だけの問題と思われがちですが、決してそうではありません。
WHO(世界保健機構)が不妊の原因を調査した結果では、女性のみ原因41%、男性のみ原因24%、男女とも原因24%という報告がなされています。
たしかに不妊の原因は女性の方が確率では高いという結果ですが、少なからず男性にも原因があるということは知っておきたいところです。
厚生労働省の見解
厚生労働省としては、妊娠や出産適齢期という言葉を使ってはいません。
ただ、妊娠年齢での流産のリスクや染色体異常のリスクについては、データを示しています。
「妊娠・出産等に関する知識を持った上で、自分のライフプランを考えていくことが重要と考えられる」
とも述べています。
以下、厚生労働省が作成している資料の一部です。
これらの資料を見れば、やはり出産における女性の適齢期はあるのだと、あらためて感じます。
専門家の考え
国立成育医療研究センター 齊藤英和氏
『妊娠・出産・育児に適した時期は20代』
「ヒトは男女とも加齢に伴い妊娠する能力が減弱し、また、妊娠中や分娩時のリスクや出生児のリスクが増加する。また、育児には体力が必要です。」
これは、内閣府が少子化社会対策大綱の策定にあたり、作成した資料の一部からの抜粋です。
公益社団法人 日本産婦人科医会
<妊娠適齢年令>
「女性の妊娠しやすさは、おおよそ32歳位までは緩徐に下降するが、卵子数の減少と同じくして37歳を過ぎると急激に下降していく。
さらに卵子の質の低下(染色体数の異常)については35歳頃より数の異常な染色体の割合が上昇する。」
冬城産婦人科医院 院長
妊娠(胎生)6か月の胎児の段階で、卵子を入れる卵胞は700万個ほどに増加します。しかし、その後は次第に減少し、出生時には約200万個になります。更にその後も減少を続け、思春期つまり月経が始まる頃には、約20~30万個程までに減ってしまいます。そこからは閉経に向かって減少を続けます。
つまり卵子は、妊娠(胎生)6か月までに一生分の全てが作られ、その後は一度も増えることなく、時間とともに、年を重ねるごとにどんどん失われていきます。
卵巣内で排卵という出番を待っている卵胞は、声がかかるまで眠り続けます。しかし、この卵子は35歳を過ぎたあたりから、老化し、染色体や遺伝子に異常が起こりやすくなります。(冬城産婦人科医院 院長コラムより引用)
浅田レディースクリニック
「平均寿命に関係なく、女性の生殖年齢は大昔からまったく変わっていないのです。」
「だいたい閉経の10年前から妊娠できなくなります。」(浅田レディースクリニックHPより引用)
適齢期以降の出産リスク
出産適齢期をすぎたとみられる、30歳代後半以降の妊娠・出産のリスクを確認してみます。
女性は胎児の時に卵巣で卵子を作ります。
その時が卵子の数のピークで、出生してから新しい卵子が作られることはなく、どんどんその数は減っていきます。
ということは、人間が年をとるように、卵子も「年をとり」衰えていくのです。
加齢に伴い数が減っていくことに加え、卵子は排卵されるまでの非常に長い期間、卵巣内で様々なストレスにさらされ続けるため、以下のような問題が生じ、質の低下が起こってきます。
- 卵子の減数分裂がうまくいかなくなる(→ 染色体異常の卵子が増える)
- 卵子細胞質でのミトコンドリア機能低下(→ エネルギー産生が低下し発育不良に)
- 卵子細胞質でのカルシウム放出低下(→ 受精後の胚発生が悪くなる)
- 細胞の老化に関与する染色体末端のテロメアが短縮する(→ 細胞分裂が停止)
出産適齢期をこえて出産した場合、一番大きな影響といえるのは、染色体異常の子供が生まれる可能性が高くなることです。
先ほどの厚生労働省の資料をもう一度見てみましょう。
ご覧のように35歳を過ぎると、年を重ねるごとに染色体異常(ダウン症を含む)の子供が生まれる頻度が高くなっていきます。
年々、高齢による妊娠・出産が増えていくなかで、2013年4月から新型出生前検査が始まりました。
正式には「母体血胎児染色体検査(NIPT)」といいます。
この検査は妊婦から採血をおこない、その血液の遺伝子情報の解析をおこないます。
それにより、かなりの確率で胎児の染色体異常の可能性を検出することができるようになりました。
ただこの検査を行うことで、堕胎という選択をする人も出てくることから、厚生労働省では、
障害が予測される胎児の出生を排除し、ついには障害を有する者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念がある。
という認識はもっているようです。
出産適齢期の教育
出産適齢期をこえた妊娠・出産を、必要以上に恐がることはありません。
何ごとにおいても、そのリスクを知った上で、正しく対処することが大切です。
「妊娠には適齢期がある」ということを理解し、自分の人生設計を立て早めに対策していくことが肝要です。
ちなみに、マイナビウーマン(女性向けサイト)が、『何歳まで妊娠出産可能だと思う?』という調査を行いました。
その結果は以下の通りでした。
- 第一位 45歳(20.8%)
- 第二位 35歳(14.5%)
- 第三位 39歳(12.6%)
※マイナビウーマン調べ(2016年1月にWebアンケート。有効回答数133件。22歳~34歳の社会人女性)
サンプル数は少ないですが、高い年齢まで妊娠できると思っている人が、意外と多い結果になっています。
もちろん子供を持つ持たないは、それぞれの人生の選択ではあります。
しかしいざ子供がほしくなった時に後悔しないためにも、妊娠適齢期の知識を持つことは大切なことです。
学校教育においても、この点をしっかりおさえて教育していく必要性があるのではないでしょうか。
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