食料自給率とは、国内で消費されている食料が、国産でどの程度まかなえているかを示す指標になります。
農林水産省は、いまも食料自給率を、カローリーベースで出しているようです。
以前、このことに対する問題提起がなされました。
詳細は後で書きますが、農林水産省の現在のHPを見ると、カロリーベースの食料自給率と生産額ベースの食料自給率が載せてあります。
どれかくらいの時期から、生産額食料自給率をカロリーベースと並べて記載し始めたのかわかりませんが、問題提起による何らかの影響はあったのでしょう。
ただ、マスメディアでは相変わらず、カロリーベースの食料自給率をメインに記事が書かれています。
【時事通信 2019.8.6】
農林水産省は6日、2018年度の食料自給率(カロリーベース)が前年度比1ポイント低下の37%だったと発表した。コメが記録的な不作だった1993年度と並び過去最低。天候不順により、小麦や大豆の生産量が減少したことが響いた。政府は食料を安定的に確保するため、25年度にカロリーベースで45%とする目標を掲げているが、達成は難しくなっている。
今回は、カロリーベースの食料自給率の問題について、調べてみたいと思います。
日本は世界5位の農業大国
『日本は世界5位の農業大国』(浅川芳裕)という本が出版されたのが、2010年でした。
その内容は、まさに目から鱗でした。
食料自給率をカロリーベースで算出することの胡散臭さが、白日のもとに晒されたといってもよい内容でした。
あれから10年。
農林水産省は、この書籍の内容が国民の記憶から忘れ去られるのを、ジッと耐え忍んでいたのでしょうか。
「日本の食料自給率は低すぎる!」
「何とかしないと。将来大変なことになる」
「だからもっと、農林水産省に予算を下さい!」
こんな主張が聞こえてきそうです。
では、食料自給率をカロリーベースでだすことの何が、問題なのでしょうか。
念のため、カロリーベースの食料自給率の推移をあらわしたグラフを、2種類載せておきます。
上のグラフが農林水産省のもの、下が時事通信に載っていたものです。
食料自給率カロリーベースとは
平成30年度は、カロリーベースの食料自給率が37%ということでしたが、以下の計算式になります。
ちょっと気になりませんか?
分母に当たる“ 1人1日当たりの供給熱量 ”が、『2,443kCal』になっています。
農林水産省では、1日に必要なカロリーとして、「活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安」と言っています。
子供から老人まで想定するともっとややこしくなってしまいますので、農林水産省の数字をベースに考えれば、分母は、2,000kCalくらいで計算するのが妥当な数字でしょう。
では、なぜ分母が『2,443kCal』なのでしょうか。
それは、食料自給率の考え方では、以下の計算式で、数値をだしているからです。
要するに、余分なカロリー分は、供給されなかった分までも入っているという事です。
食料自給率のカラクリ
ご存知のように日本では、ホテル、レストラン、コンビニ、ファミレス等、日々大量の廃棄物を出しています。
そのカロリー分も、この計算式の分母に加わっています。
単純に考えれば、1人1日当たりの国産供給熱量を、1人1日当たりの平均摂取熱量で割れば済むことです。
912kCal ÷ 2,000kCal = 45.6%
これだけでも、平成30年度の食料自給率が8%も上がりました。
2025年度までに45%にする目標を政府は掲げているということなので、既に目標達成です。
次に、分子にあたる『国内生産』についてみてみます。
畜産物の黄色の箇所を見て下さい。
『 輸入飼料部分(自給としてカウントせず) 』と書いてあります。
これは、どういう事かというと、国内で育てられた牛・豚・鶏などでも、飼料が輸入品の場合は、国内生産品には含まないということです。
餌が輸入品なので、その餌で育った動物の肉・卵・乳製品なども、国内生産品ではないという考えです。
カロリーの高い動物の肉が、分子の国内生産品から除外されるわけですから、いわずもがな食料自給率は下がります。
他には、農産物をほとんど販売していない自給的農家や副業的農家が生産して自らで食している食料も『国内生産』に含まれません。
私も実家が農家だったので、今現在も高齢の両親が、実家や子供達の家庭分の米や野菜や果物を作って、季節ごとに送ってくれます。
米でいえば、我家の1年間の消費分の6~7割がそれにあたります。
でも全国のこういった生産分を把握することは、かなり難しいでしょう。
これらを入れたら、計算式の分子はもっと上がるはずです。
カロリーベースは日本だけ
更に決定的な事実として、カロリーベースの食料自給率は、ほとんどの国が算出していません。
農林水産省が発表している欧米諸国の食料自給率は、ご丁寧にも農林水産省が計算したものです。
農林水産省HPのPDF資料に、“ 農林水産省で試算した ”と注釈があります。
この数字が重要な指標であるならば、他の諸国でも当然算出し、自給率向上のために数値を意識した施策を行うでしょう。
でも、それをしていないということは、指標として参考にできないという証左でもあります。
冒頭で紹介した本の著者である浅川芳裕氏は、日本ビジネスプレスのインタビューで、
この本(『日本は世界5位の農業大国』)を出版する前に、小論を『文藝春秋』に載せたところ、農林水産省から抗議があり、およそ20項目の質問状が届いた。
日本ビジネスプレス
それにすべて答えると、「今回のことはなかったことにして下さい」と抗議を引っ込めた。
と語っています。(あくまで浅川氏の言い分ではありますが)
果たして、カロリーベースの食料自給率という指標は必要なのでしょうか?
もう結論は出ていると思います。
食料自給率世界との比較
国際的にみて他の国では、食料自給率はどの程度の数値なのでしょうか。
カロリーベースと生産額ベースで比較すると、日本と他国との比率がだいぶ違います。
農林水産省は、他国とより差が出るように、カロリーベースの食料自給率を前面に押し立てているとしか、思えません。
ただし、生産額ベースの食料自給率で考えても日本は66%ですから、食料自給率はもっともっと上げていかなければなりません。
食料自給率は、安全保障に大きく関わってくる問題です。
いざという時、他国に頼らなくても食料をまかなえるだけの体制を、つくっておかなくてはなりません。
そのためには、日本の農政の抜本的な改革が必要なことは、間違いないでしょう。
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