自民党の参議院議員の定年制の問題が報道されています。
【日本経済新聞 2021.7/27】
自民党の世耕弘成参院幹事長は27日の記者会見で、党が参院選の比例代表候補に適用している「70歳定年制」の将来的な見直しに言及した。
定年の引き上げや制度の撤廃の考えがあるかと聞かれ「そういう時期にきていると思う」と述べた。
「元気で頭脳が明晰(めいせき)な方には、引き続き選挙に立候補して活躍してもらうのは妥当だ」と語った。
世耕参院幹事長(当時)が言うように、能力に個人差が相当ある政治家に、70年定年を一律適用するのは国益にかなわないと思います。
日本では、一般的に定年と言われているのは、60歳です。
国家公務員や地方公務員は60歳定年ですし、一般の企業でも65歳定年が増えているとはいえ、まだまだ60歳を定年とする会社の割合が多いです。
自民党でも一般社会に習い、比例代表での国会議員の定年を決めています。
今回は、自民党国会議員の定年について確認するとともに、議員の定年について考えてみます。
70歳定年はいつから
自民党で、参議院の比例選出議員の「70歳定年」が導入されたのは、1989年のことになります。
自民党の内規には「任期満了日に原則として満70歳未満」と記載されています。
参議院議員の任期は6年ですので70歳前に当選した場合、76歳手前で任期満了ということになります。
ただし、この70年定年制が自民党内で厳格に適用されだしたのは、20年ほど前からです。
衆議院議員の定年
自民党の比例選出参議院議員の定年が決まってから、比例選出衆議院議員の定年も2000年に、決まりました。
その後、2003年小泉首相時代から厳格に運用されるようになり、比例候補については73歳定年とされました。
なぜ参議院と衆議院に、年齢差がついているのでしょうか。
それは、参議院議員と衆議院議員の任期に関係があります。
参院比例選出議員の定年を70歳未満とした場合に、参議院議員の任期が6年ですので、76歳前に引退となります。
衆院議員の平均任期である約3年(解散がなければ本来は任期4年)を76歳から差し引いて、73歳を導き出した結果が、比例選出衆議院議員の定年年数です。
当時の小泉首相が、85歳の中曽根、83歳の宮沢両元首相を訪れて、衆院選への不出馬を要請したことが大きく注目されました。
その際、相当な抵抗をしめした中曽根元首相でしたが、結局出馬を断念しました。
参議院と衆議院・比例の違い
参議院議員と衆議院議員では、比例代表において決定的な違いがあります。
衆議院議員では、参議院議員にはない比例名簿というものがあります。地区ブロックごとの名簿に順位があって、党での総得票数に応じて割り振られた議席に対して、順番に当選が決まっていきます。
わかりやすいように、2017年の衆院選での自民党東北ブロックの比例名簿と当落を見てみましょう。
<岩手、秋田、宮城選挙区当選者省略>
比例名簿1位であれば、自民党では間違いなく当選できます。東北ブロック比例名簿1位の江渡聡徳議員は、小選挙区では立候補していません。
江渡聡徳議員は今まで、小選挙区で当選を重ねてきた国会議員です。しかし2017年の選挙から区割り変更で、青森県の4区がなくなったため、青森県自民党内で調整が行われました。
その結果、江渡聡徳議員が比例代表にまわり、名簿1位として当選を約束されたのです。
2位にたくさんの候補者が名前を連ねているのは、小選挙区と比例に並立で立候補しているからです
この2位グループの順位は、小選挙区での惜敗率が大きい候補者から順番に当選が決まっていきます。小選挙区で勝利すれば、この名簿からは名前がおのずと外れます。
惜敗率というのは、小選挙区選挙での最多得票者の得票数に対する同選挙区での落選者の得票数の割合のことです。
例えば当選者が10万票で、次点の候補者が8万票を得票したとします。その際に次点の候補者は、惜敗率80%ということになります。
名簿順位が下位なると、小選挙区の候補者の多くが選挙区で勝つか、ブロックの比例票数が野党に圧倒して増えない限り、当選は難しくなります。
これに対して参院選での比例代表では、個人名か党名を書いて投票されます。
ブロック別けも名簿順位もないので、全国単位での人気投票という側面があります。もちろん人気投票というだけではなく、多くの組織票を持っている候補者が有利になります。
定年・例外規定
この国会議員の定年について自民党では、例外をもうけています。
定年の例外規定には
「総裁が国家的有為な人材と認めた者」
「支持団体が余人をもって替えがたい候補者と決定、総裁が認めた者」
と書かれています。
実際に2013年の参議院議員選挙では、山東昭子元参院副議長と佐々木洋平元衆院議員(落選)を公認しています。
例外規定がうやむやになることに警戒しているのが、若手の自民党国会議員達です。
【毎日新聞 2018.5.31】
党青年局などには、特例が続出して形骸化することを警戒し、定年制堅持を求める声が根強い。ある若手議員は「原則を守ってほしい」とけん制。別の議員は「党は若者や女性の登用を掲げている」と新陳代謝を訴える。
それに対して、内規の見直しを求める声も出ています。
【産経ニュース 2018.6.5】
党幹部からは高齢化時代に応じた対象年齢の引き上げを求める意見も出始めている。
自民党の吉田博美参院幹事長は5日の記者会見で、定年制の例外の適用について「批判の声があることは真摯に受け止めなければいけない」と述べた。その上で「国会議員にエイジフリー(年齢にかかわらず)はないのか。これから議論の対象になるのではないか」と述べ、定年制を再検討する可能性に言及した。
70歳定年は必要か
自民党参議院議員の70歳定年(比例代表)は必要なのでしょうか。
先ほど簡単にふれましたが、参議院議員の比例代表は、選挙の際に党名でも立候補者名で投票しても、どちらでもかまいません。
党全体で獲得した票数に対して当選人数が割り当てられ、得票の多い順に当選者が決まる「非拘束名簿式」がとられています。
ちなみに、2016年の参議院議員選挙で自民党は、比例代表得票で20,114,788票(得票率35.9%)を獲得して、19名の当選者を出しています。
上位19名は、他の候補者よりも、多くの個人名を投票用紙に書いてもらって当選したわけですから、『実力』で勝ち取ったともいえます。
ただし『実力』といっても、純粋な実力とは必ずしもいえません。
回りくどい言い方をするよりも、2016年参院選の自民党の上位当選者を見てもらえれば、その意味がわかります。
52万票以上を獲得して比例代表の自民党トップ当選を果たしたのは、徳茂雅之議員でした。
徳茂雅之議員は、元郵便局長や日本郵便株式会社の役員を務め、まさしく郵政関連の組織票によって当選したことになります。
郵政民営化で自民党とけんか別れしていましたが、2013年から自民党支持に復帰したかたちです。
日本建設業連合会、全国建設業協会、コンサルティングエンジニア連盟など、建設関連業界からの推薦を受けて6位で当選したのは、足立敏之議員です。
いわゆる彼らは、『組織内候補』です。各業界団体の代弁者となります。
4位の中西哲議員は四国の選挙区事情から、徳島県と高知県の業界票を全て回すことを条件に参議院比例代表に回りました。
高村副総裁(当時)や麻生太郎副総理らから業界団体を紹介され、100以上の団体の推薦を獲得したことを新聞のインタビューで応えています。
3位の片山さつき議員と5位の今井絵理子議員は、全国的に顔が知られていますので、組織票以外の票も多く入ったでしょう。
ただし、自民党から大なり小なりいくつかの組織票を配分されていたのも事実です。
というのは、2位で当選した青山繁晴議員が、自民党からの出馬を決断した際、自民党からの「支援団体を付ける」という申し出を一切断ったという話をネットの番組でしているからです。
青山繁晴議員は、まさに純粋に人気(?)投票という形で当選してきた参議院議員といえます。その青山議員でも、自民党候補として組織に所属していなければ当選できなかったわけです。
これは小選挙区でもある面、同じことではあります。自民党から公認を受けているから投票したという有権者が、多くいるはずです。
長々と説明してきましたが、何が言いたいかというと、個人の力量だけで当選できるわけではない以上、『定年』という組織の取り決めに従わざるを得ないということです。
問題は、定年の年齢基準が妥当かという点と、例外規定の曖昧さにあります。
今後、自民党は定年対象者の対応をどうしていくのでしょうか。避けては通れない課題といえます。
【関連記事】⇒『衆議院選挙の比例復活と惜敗率の関係』
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