この頃、『江戸しぐさ』という言葉を耳にするようになりました。
はたして『江戸しぐさ』とは、どういったものなのでしょう。
インターネット上では “怪しい” という意見も散見されますので、ちょっと調べてみます。
江戸しぐさとは?
この『江戸しぐさ』、簡単にいえば、江戸時代の商人が行っていたとされる行動哲学のことです。
行動哲学というくらいですから、その行いには、「いかに生きるべきかとか」、「人にどう対するべきか」などの意味が含まれていたはずです。
具体的な江戸しぐさのいくつかの種類をあげると、狭い路地ですれ違う時、傘を傾けて相手が濡れないように気づかう『傘かしげ』や、
相手に足を踏まれた際に、こちらもボーッとしていたからと相手に謝る『うかつあやまり』などがあると言われています。
こんな説明を聞けば、「江戸の人は、思いやりがあったんだねぇ。少しは見習わなくちゃ」と感心してしまうのが普通の日本人的感覚でしょう。
『江戸しぐさ』の文献なし
ところが、この『江戸しぐさ』、まったく文献が存在せず、その信憑性が疑われていると聞くと、「えっ、どういうこと?」と思ってしまいます。
このての話は、昔から綿々と受け継がれてきたことに対して、現代においてあまり知られていない現実に危機感を持った人が、コツコツと情報発信したところ、マスコミに取り上げられ、注目を浴び始めるといったパターンが多いのではないでしょうか。
では、この江戸しぐさの情報発信を始めたのは、誰だったのでしょう。
wikipediaによれば、芝三光(本名:小林和雄)という人物が提唱し、「NPO法人江戸しぐさ」が普及・振興を促進していると書かれています。
NPO法人江戸しぐさのHPでは、芝三光の本名が『小林和男』になっています。
提唱者・芝三光
芝三光は、1922年に東京の芝に生まれました。
1965年に「江戸を見直すミーティング」を設立し、1974年には「江戸のよさを見なおす会」をつくっています。
「NPO法人江戸しぐさ」は、2007年9月5日に設立された団体です。法人の代表は、理事長である越川禮子氏になります。
越川禮子が師と仰ぐのが芝三光で、「亡き師の思いを何とか世の中に広めようと」設立したのが、NPO法人江戸しぐさです。芝三光はすでに亡くなっています。
ここで自然と先ほどの疑問がわいてきます。
「(江戸しぐさに関する)文献がないって、どういうこと?」
NPO法人江戸しぐさのHPでは、
・「江戸しぐさ」、そのものに関するまとまった文献は残っていない。
・江戸講は一種の秘密結社として活動、その内容は文書には書き残さず、口伝が当たり前だった。
・仮に文書で書き留めておいた場合、形式論に流れ、その本質が伝わらないという危惧もあったようだ。
と書かれています。
ちょっと言い訳のように聞こえなくもありません。
芝三光が生まれた1922年は、大正11年です。
彼の祖父が、江戸講の講元で、幼いころからその教えを受けて育ったといいます。(「講」は寄り合い、組織などの集まりの意)
『江戸しぐさ』は嘘?
文献がまったく残っていないということは、逆に言えば、その存在自体がなかったとも言えます。 また、ここ最近までほとんどの人が『江戸しぐさ』の存在を知らなかったという点が、どうも腑に落ちません。
芝三光が提唱するまでこの世に出てこなかったのは、どういうことでしょうか?
漫画「北斗の拳」のように、伝承されるものが“ 一 子相伝 ” の秘儀であれば、理解できなくもないですが、『江戸しぐさ』はそういった類のものではありません。
逆にどんどん広めるべき内容に思えます。
このなぜ?に対して、NPO法人江戸しぐさのHPでは、
・明治維新で勝者となった官軍側が、統治の都合上、江戸時代に関するものは全て否定したからである。
・第二次世界大戦も江戸しぐさにとっては災難だった。
「戦争中は集会の自由がなかったし、戦争が終わったらすべて正しいものはあちらさん、アメリカになって日本の伝統や文化は全て否定されてしまった。 日本の伝統、文化に関する書物が大量に処分された」
と書かれています。
だとすると、芝三光がいなければ、『江戸しぐさ』の歴史が、完全に途絶えてしまったということになります。
ちょっと“陰謀論”を語っているような気もしますが…。
文部科学省発行の「私たちの道徳」でも『江戸しぐさ』が紹介され、児童達に教えられています。
文部科学省では、
「批判があることは知っています」
「道徳の教材は江戸しぐさの真偽を教えるものではない。正しいか間違っているかではなく、礼儀について考えてもらうのが趣旨だ」
と苦しい言い訳ともとれることを言っています。
【引用先】BuzzFeed「それはいつわりの伝統~」石戸諭
文部科学省では、すぐに後戻りが出来ない状態のようです。
中学の公民の教科書で『江戸しぐさ』を掲載していた育鵬社は、平成28年度から内容をはずしていくことが決まっています。
いずれにしろ、ここ数年でその真贋が明らかになっていくでしょう。
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