最近、『線状降水帯』という言葉を聞くことが多くなりました。
『線状降水帯』の影響で記録的な大雨が降り、家屋への浸水やがけ崩れの被害が相次いでいます。
“自然災害大国”といわれる日本にとって、今後も『線状降水帯』による災害は、避けて通れないことなのでしょうか。
異常気象がおこると、日本ではすぐに「地球温暖化の影響だ」という論調が聞かれます。
この『線状降水帯』も、地球温暖化の影響と関係はあるのでしょうか。
それも含め、『線状降水帯』について調べてみたいと思います。
線状降水帯とは
線状降水帯について、気象庁HPには以下のように書かれています。
次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域を線状降水帯といいます。
気象庁HP
イメージとしては、こんな感じです。
雨雲が数時間停滞して大量の雨を降らせることになりますので、自然が許容できる雨量や人口の排水システムでは処理することができない水が、土砂災害や河川の氾濫によって家屋への浸水をもたらします。
地球温暖化との関係
では、この線状降水帯は、どのような原因で起こってしまうのでしょうか。
地球温暖化との関係はあるのでしょうか。
先ほど気象庁の線状降水帯についての説明に、『次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし』とありました。
雨雲が次々と発生する理由は、以下のイラストから理解できます。
- 低層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続
- 局地的な前線や地形などの影響で空気が持ち上がり雲が発生
- 大気の状態が不安定で湿潤な中で積乱雲が発達
- 上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並ぶ
ご覧のように、いくつかの要因が重なって、線状降水帯が発生することがわかります。
線状降水帯という言葉は、2014年8月に発生した広島での豪雨の頃から使われるようになった気象用語です。
ただし、それ以前から同様の気象状態は存在していました。
地球温暖化との関連性は私が確認した限りでは「(関連性が)あるかもしれないし、ないかもしれない」です。
国立研究開発法人・海洋研究開発機構のコラムで、茂木耕作研究員が以下の見解を述べています。
多くの人から私達研究者に寄せられる疑問の一つが「これらの豪雨は地球温暖化によるものなのか?」ということです。
しかし、科学的に真摯であろうとすれば、その疑問に対して簡単に「そうです」とは言わないはずです。
例えば、「数十年以上の長期的な傾向として、日本でも大雨の日数が増えていることは確かで、その傾向が生まれる原因として地球温暖化が関係している可能性は高い。しかし、個々の大雨について、地球が温暖化していなければ絶対に起こらなかったか、と言われればそうとは言えない。」といった答え方が誠実だろうと思います。
コラム
地球温暖化論に対しては賛否両論がありますので、この線状降水帯に関しても、地球温暖化が原因なのかすぐに結論が出ることではないでしょう。
線状降水帯による被害
もちろんその規模や土地の状況によりますが、線状降水帯による被害は甚大です。
例えば、線状降水帯命名のきっかけになった広島市北部の安佐北区や安佐南区では、線状降水帯によって大規模な土石流が発生しました。
2014年8月19日夜から20日明け方にかけて降った集中豪雨により、70名をこえる方々が亡くなり、全壊半壊の合計が250棟以上で、床下浸水を含めると4500棟以上の家々が被害を受けています。
また2018年6月28日から7月初旬にかけて発生した、台風7号および梅雨前線の影響による集中豪雨も激しいものでした。
西日本を中心に何十カ所にもわたって線状降水帯が発生し、河川の氾濫や洪水、土砂災害などの被害が相次ぎました。
被害の範囲が広いとはいえ、死者は260名以上、全壊半壊の件数も1万6千棟をこえました。
2020年7月に熊本県を中心に九州地方を襲った集中豪雨はまだ記憶に新しいところです。
気象庁では『令和2年7月豪雨』と命名しました。
全国で80人を超える人が亡くなり、住宅被害は全壊が1,620棟、半壊・一部損壊が8,103棟、床上・床下浸水が6,825棟でした。
線状降水帯への対応
線状降水帯の発生は、予測可能なのでしょうか。
現時点で、線状降水帯の発生を事前に予測することは困難と、気象庁が認めています。
現在の観測、予想技術では、いつどこで線状降水帯が発生し、どのくらいの期間継続するのかを、事前に正確に予想することはできません。
気象庁
そのために気象庁では、2020年12月に専門家による『線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ』を発足させました。
2021年に開かれたワーキンググループの議事録を確認すると、「2030年までには半日前から線状降水帯に伴う災害発生の危険度に関する情報を提供」できるようにするという目標を掲げています。
素人考えでは「10年かかって予想できるのが半日前なの?」と思いますが、それだけ線状降水帯の予測は難しいということでもあります。
気象衛星『ひまわり』は2022年12月から9号が運用されています。
更には後継機10号が2023年度に製造着手され、2029年度の運用開始を目指します。
スーパーコンピュータ『富岳』活用も更に進めていく予定です。
日々の天候を気象サイトで確認しても、「さっきまで傘マークなかったのに」と2~3時間後に天候が急変することは不思議ではありません。
天候はある程度の予測は可能でも、現時点で正確な情報を得ることは困難です。
少しでも線状降水帯の被害をなくすために、専門家も頑張ってくれていることは理解するとして、やはり “自分の身は自分で守る” しかありません。
気象情報や公的機関からの情報を基に、自分が住んでいる地域の土地柄など理解して対応を検討しておく必要があるでしょう。
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