選挙演説の際、聴衆から突発的なヤジが飛んでくることはよくあることで、ある意味仕方ないことかもしれません。
しかしそのヤジが継続的だったり、集団でおこなわれて明らかに他の聴衆が演説を聞きとれない状況になっていたら、それは問題です。
2017年7月秋葉原駅前、安倍首相(当時)が街宣車の上に立って、選挙の応援演説をしていました。
その時まさにヤジが飛び交っていました。しかしそれは果たして、ヤジとすませることができる程度のものだったのでしょうか、それとも “選挙妨害” と断じてよい行為がおこなわれていたのでしょうか。
今回は、公職選挙法を確認して、『選挙妨害』について調べてみたいと思います。
どこまでが選挙妨害?
【朝日新聞 2017.10.18】
街頭演説にヤジはつきものかと思いきや、最近は「選挙妨害だ」と弁士たちが反応する場面が目立つ。 街頭演説は黙って聞くべきなのか? 演説中に聴衆が意思を示すのはダメなのか。
朝日新聞がこのような書き出しで、街頭演説でのヤジについて記事にしています。
ことの発端は、安倍首相が東京都議会議員選挙での街頭応援演説の際に、集団でのヤジ行為(選挙妨害?)を受けたことによります。
その時に安倍首相が、「こんな人達に皆さん、私達は負けるわけにはいかない」と言ったことが問題視され、テレビでその時の様子が何度も流されたのです。
この朝日新聞の記事では、選挙演説中のヤジの賛否について論じています。
ヤジが選挙妨害にあたるかどうか、別の意見の専門家の話や、マック赤坂氏の「秋葉原のようなコールは絶対にダメだ。民主主義の否定になる」など前半部に載せています。
後半部では、3人のヤジ容認派の意見をまとめて話題を締めくくっています。
ちなみに朝日新聞記事のタイトルは、『演説にヤジ・抗議だめ?「聞く権利をふみにじる」「有権者による意思表示」』となっています。
「有権者による意思表示」はあって良いでしょう。
ただ、あの秋葉原駅前での安倍首相の応援演説に対するヤジは、この記事で論じられているヤジとはレベルが違う話です。
テレビでは、何度も安倍首相の発言を繰り返して、安倍首相が都民に対し『こんな人達』と言ったというニュアンスで報道していました。
『こんな人達』の様子
以下、『こんな人達』です。
↑ 事前にしっかり準備されていた手作り横断幕
↑ 大人数で声を張り上げています
↑ プラカードを持って口々に叫んでいます
これらの写真は、デモ行進の時のものではありません。
デモ行進であれば、それぞれの主張を訴えて、横断幕やプラカードを持って集団で叫ぶのは、何の問題もありません。民主主義国家の日本では、国民の権利として、デモは認められています。
でも、これは選挙応援演説でのおこないなのです。
これがはたして、個人がたまたま集まっておこなったヤジというレベルでしょうか?
【産経新聞 2017.10.24】
7月の演説で起きた抗議は自然発生的なものではなく、初めから安倍首相の演説を妨害する意図で、左派団体が組織的に動員をかけたものだった。1時間以上も「安倍やめろ」コールをやめないとあっては、公職選挙法225条違反は明らかだ。組織的な妨害である証拠にその団体の関係者のツイッターでは、秋葉原に集結するよう呼びかけていた。
産経新聞の記事はこのように書いています。
記事で指摘されている公職選挙法225条の一文は以下となります。
選挙の自由妨害罪
第二百二十五条 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮こ又は百万円以下の罰金に処する。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀き棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。
論より証拠、公平な立場で下の動画をみれば、選挙妨害以外の何物でもないことがわかります。
上の動画の後半(1:27~)に出てくる大学院生は、ツイッターの呼びかけで集まり「抗議活動することを知っていました」と言っています。
公職選挙法230条
公職選挙法230条に『多衆の選挙妨害罪』という条文があります。
【職選挙法230条】多衆の選挙妨害罪
多衆集合して第二百二十五条第一号又は前条の罪を犯した者は、次の区別に従つて処断する。選挙に関し、多衆集合して、交通若しくは集会の便を妨げ、又は演説を妨害した者も、同様とする。
一 首謀者は、一年以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
二 他人を指揮し又は他人に率先して勢を助けた者は、六月以上五年以下の懲役又は禁錮に処する。
三 付和随行した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪を犯すため多衆集合し当該公務員から解散の命令を受けることが三回以上に及んでもなお解散しないときは、首謀者は、二年以下の禁錮に処し、その他の者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。
※第二百二十五条第一号:選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
この公職選挙法を読めば、上記の動画や画像から彼らの行為が、『多衆集合して演説を妨害した者』以外の何ものでもないのは明らかです。
警察はなぜ逮捕しない?
では、なぜ警察は動かないのか?
解散命令をすることもできるはずです。
前項の罪を犯すため多衆集合し当該公務員から解散の命令を受けることが三回以上に及んでもなお解散しないときは、首謀者は、二年以下の禁錮に処し、その他の者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。
警察が動かないのは、『権力=悪』という構図で、警察の行動をマスメディアが報道することがわかっているからでしょう。
騒ぎにしたくないからとしか、私には思えません。
元警察官の坂東忠信氏は、ネット番組でこのように発言しています。
「近くに警察官がいると思いますので、こういう選挙妨害をするような人たちが集まって実際に妨害が始まったらすぐに110番して頂いても構わないと思います。」
「ただ110番を受けたからといって必ず逮捕するというわけじゃないんです。法に定めがあっても妥当性と世論が必要なんですね。その逮捕が妥当であるという状況については今まで何度も組織的な妨害がありましたんで、これはもう妥当性は私はOKだと思います。あと世論のほうですね。」
「警察がそういう取締りをして、警察がマスコミから『言論を弾圧した!』と言われた時に、世論の方が『これは言論弾圧じゃない。首相に対してここまでやられてて放置されていいわけねーだろ!』と。国民がマスコミに対してこれが民意であると示せればちゃんと法は的確に執行される、実行できるということですね。」
このような選挙妨害行為は、二度としてほしくありません。
相手をおとしめる言動ではなく、堂々と正当な方法で、適正な場で、自分達の信じるところを主張していってほしいものです。
札幌ヤジ裁判地裁判決
2019年7月に参院選がおこなわれました。
“ヤジ事件” はその選挙中、札幌市でおこります。
選挙応援で演説中の安倍首相(当時)にむけて、男女2人がヤジを飛ばしました。
現場にいたわけではないので、そのヤジがどれほど大きくしつこい内容だったかはわかりませんが、結果としてその2人は、警察官から強制的に退去させられました。
これを不服とし退去させられた2人が原告となって、裁判がおこなわれたのです。
HTB北海道ニュースの動画をみる限りでは、秋葉原のような組織的なヤジではないようにみえます。札幌地裁の裁判結果を、新聞は以下のように伝えています。
【朝日新聞2022.4/1】
3月25日の一審判決は、原告の2人がヤジを飛ばしたとき現場に危険はなく、警察官による排除は、危険な場合の避難や犯罪予防のための制止を定めた警察官職務執行法の要件を満たさないと判断。
2人のヤジは公共的な表現行為で、警察官らはヤジが安倍氏の演説の場にそぐわないと考え、「表現行為そのものを制限した」と結論づけ、原告への慰謝料など計88万円の支払いを道に命じた。
被告の北海道は、札幌高裁に控訴したということですので、これからも裁判は継続していきます。
この裁判の結果によっては、選挙演説中のヤジに対して、警察が対応に苦慮することになりかねません。
警察がなかなか手出ししないとわかれば、保守陣営と革新陣営が各々の街頭演説にくり出し、ヤジ合戦に発展する恐れがあります。
そんな見苦しい光景を、私は見たくないです。
札幌ヤジ裁判最高裁判決(追記)
最高裁の判決が出ました。
結果は以下の内容となります。
【朝日新聞デジタル 2024.8/20】
2019年7月の参院選で安倍晋三首相(当時)の演説中にヤジを飛ばし、北海道警の警察官らに排除された2人が、道に計660万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第一小法廷(深山卓也裁判長)は、道と二審で逆転敗訴した原告の男性双方の上告を退けた。
19日付の決定。もう1人の原告の女性の排除を憲法が保障する「表現の自由」の侵害と認め、道に55万円の賠償を命じた二審・札幌高裁判決が確定した。
男性と女性の判決の違いは、男性のヤジの連呼は聴衆との間でトラブルが発生する恐れがあった事、それを治めようとした警察官の警告を無視した点のようです。
この判決の教訓は、演説中に過度のヤジを継続的にする人物がいたら警察に連絡し、聴衆がハッキリとその人物にNOを突きつけることです。
それにより警察官が警告を発し、それに従わなかった人物は排除されて当然という事になります。
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