今上陛下の譲位により、来年の5月1日には、新しい天皇陛下が即位されます。
それにともない『恩赦』が検討されているという報道がありました。
【産経新聞 2018.5.1】
政府が来年5月1日の皇太子さまの天皇即位に伴い、国家の刑罰権を消滅・軽減させる「恩赦」を実施する方向で検討に入ることが30日、分かった。 複数の政府関係者が明らかにした。
たしかに、日本国にとって皇太子様の天皇即位は、おめでたいことではあります。
しかし、そのことと刑罰を消滅・軽減させることとは、また別の話だと思えてしまいます。
昔と違って現代の世の中にあって、『恩赦』の存在意義はあるのでしょうか?
恩赦の歴史や恩赦の意味・意義について考えてみましょう。
恩赦の起源
【恩赦】 (日本大百科全書)
司法手続によることなく、国家の具体的な刑罰権の全部または一部を消滅させること
恩赦の考え方は、大化の改新(646年)頃に、唐から伝来したものと考えられています。
天皇や上皇の即位や死、将軍の官位昇進や将軍の子女誕生などによって恩赦が行われました。
明治時代の大日本帝国憲法では16条に、
天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス
とあり、天皇陛下が直接、恩赦を命じることになっています。
現在の日本国憲法では、どう書かれているのでしょうか。
【日本国憲法】
<第73条 内閣の職務>
7号:大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
現代の日本においては、内閣が恩赦を決定しています。
更に、日本国憲法7条には、
【日本国憲法】
<第7条>
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
6号:大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること
とあります。
内閣で決められた恩赦を天皇陛下が認証することで、完結するかたちを取っています。
恩赦について定めた日本の法律に、恩赦法が存在し、同法によれば恩赦には、大赦・特赦・減刑・刑の執行の免除、および復権の5種があります。
日本での直近の恩赦は?
日本でおこなわれた恩赦で直近のものは、1993年の皇太子殿下と雅子様御成婚の際の恩赦です。
この時は、一部の人の有罪判決を無効とする「特赦」や、一部の人の刑を減じる「減刑」などが実施されています。
もう少し時代をさかのぼると、1990年の天皇陛下ご即位、1989年の昭和天皇ご大葬、1972年の沖縄本土復帰で、恩赦が行われました。
恩赦は必要か
現代の世の中で、恩赦は必要でしょうか?
【産経新聞 2018.5.1】
恩赦の対象者について、政府関係者は「被害者のいる事案の受刑者を大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除にするのは、被害者に説明がつかない」と説明する。このため、被害者感情に配慮して微罪の受刑者を対象にすることや、復権に限定するなど、これまでよりも抑制的な恩赦にすることを念頭に検討していくことになりそうだ。
現代の考え方からいえば、この記事内容は、ある面当然のような気がします。
罪を犯し刑に服しているということは、被害者がいることであり、または法を破って何かしらの損害を与えた結果です。
国を挙げての祝賀があったとしても、それによって罪が減刑されることには、整合性が感じられません。
“恩赦の意義” を説明してるサイトでは主に、『冤罪事案への救済のための恩赦』や『有罪判決が出た当時の社会状況の変化や事情変更に基づく恩赦』というような説明がされています。
そういう事例であるとすれば、恩赦という形をとらずに解決していく必要性があることですので、その方策を考えた方が良い気がします。
法務省のHPでは、こんな回答になっています。
問:「なぜ恩赦は必要なのですか?」
答:「恩赦にはいくつかの役割がありますが,その中で最も重要なものとして,『罪を犯した人たちの改善更生の状況などを見て,刑事政策的に裁判の内容や効力を変更する』というものがあります。
具体的に説明しますと,裁判で有罪の言渡しを受けた人たちが,その後深く自らの過ちを悔い,行状を改め,再犯のおそれがなくなったと認められる状態になった場合などには,被害者や社会の感情も十分に考慮した上で,残りの刑の執行を免除したり,有罪裁判に伴って制限された資格を回復させたりということが行われます。
このように恩赦は,有罪の言渡しを受けた人々にとって更生の励みとなるもので,再犯抑止の効果も期待でき,犯罪のない安全な社会を維持するために重要な役割を果たしているといえます。」
恩赦を励みに刑に服している人が、どれだけいるのか疑問です。
先ほど直近の恩赦を調べてみましたが、1993年の皇太子殿下と雅子様御成婚の際の恩赦から、今はもう25年近く経っています。
いつくるかわからない恩赦に期待して刑に服している人が、本当に更生した人といえるのでしょうか。
四半世紀ぶりの恩赦、この機会に恩赦に関する議論が、もっと出てもいいのではないかと思います。
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