米国がイランとの核合意を破棄(離脱) なぜ制裁を再開するのか?

トランプ大統領・合意破棄 政治・経済関連

今もっとも関心が高い外交案件は何かと問われれば、多くの日本人は、「米朝首脳会談の行方」と答えるのではないでしょうか。

そんな中で、以下のような報道がありました。

【AFP通信 2018.5.9】
ドナルド・トランプ米大統領は8日、米国がイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開すると発表した。

トランプ氏はホワイトハウスでの演説で、「イラン合意にはその中核に欠陥がある」と指摘し、「私はきょう、米国がイラン核合意から離脱すると発表する」と表明。イランに「最高レベルの経済制裁」を科す意向を示した。

正直なところ、今は東アジアの北朝鮮問題に集中してほしいと思ってしまいます。

トランプ大統領はなぜ、イランとの核合意から離脱することを決断したのでしょうか?

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イランとの『核合意』とは?

『核合意』というのは、2015年に米英仏独中ロとイランが「包括的共同行動計画(JCPOA)」で合意した内容をさします。

イランが、核査察の受け入れや濃縮ウランの貯蔵量削減を行うことを条件に、米英仏独中ロ側が制裁解除を行うというものでした。

簡単にまとめると以下の図のようになります。

 

イラン核合意

2015年といえば、米国ではまだ、オバマ大統領が政権を担っていた時です。

核合意を破棄する理由

日本人からすると、唐突にも思えるイランとの核合意の破棄です。

どのような理由で破棄するのか、また今までの経緯について見てみましょう。

【AFP通信 2018.5.9】
イランを世界屈指のテロ支援国家と断じ、同国が中東に及ぼす影響を非難。 核合意は「悲惨な」内容であり、米国にとっての恥辱だと表明し、イランがうそをついた「証拠」があると主張した。

大統領選挙での公約

トランプ大統領は、大統領選挙を戦っていた時の公約として、イランとの核合意の破棄を掲げていました。

それは、イスラエルのアメリカ大使館を、エルサレムに移転するという公約についても同様です。

その公約のことを知らないと、イランとの核合意の破棄が、どうしても突発的な行動に見えてしまい、「またトランプが、やりたい放題やってるよ」と考えてしまいます。

 

特に、アメリカでは中間選挙を11月に控えています。

中間選挙というのは、米国上院下院議員選挙および州知事選挙のことで、大統領選挙の中間に行われることから、そう呼ばれています。

この中間選挙で共和党が過半数を取るか取らないかで、政権運営がまるで違ってきます。

そういった意味では、大統領選挙時の公約を、就任後どれだけ実行してきたかということが、トランプ大統領にとって中間選挙へのアピールになります。

北朝鮮への圧力

また、今回の核合意破棄は、北朝鮮へのプレッシャーになっているともいえます。

米朝首脳会談においても、「いい加減な甘い合意はしない」という北朝鮮への強いメッセージです。

短い期間に二度、中国の習近平に会いに行った金正恩委員長、今や中国にすがるしか道がありません。

中国は朝鮮半島に、対米国に対しての緩衝国家が存在してほしいと思っています。

習近平は、金正恩を脅しつつ、「俺が何とかする」的な対応をしていることでしょう。

【東亜日報 2018.5.10】
中国の習近平国家主席が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が核の解決法に掲げた「段階的」という表現をトランプ米大統領にそのまま伝え、北朝鮮の強力な後援者として韓半島問題に介入する意向を表した。

9日、中国外交部によると、習氏は前日、トランプ氏との電話会談で、「米朝両国が同じ目標に向かって協力し、相互に信頼して段階的な行動を取り、北朝鮮の合理的な安全の憂慮を考慮して、韓半島問題の政治解決を共に推進することを望む」と明らかにした。

段階的な核解決法は北朝鮮の非核化措置とこれに対する米国の補償をいくつかの段階に分けて一つ一つ対等交換しなければならないという意味だ。

今まで二度、米国や日本は北朝鮮に騙されてきました。

核を廃棄すると言いつつ、米国や日本の経済支援を受けるだけ受けて、北朝鮮はその約束を反故にしてきたのです。

今回も「相互に段階的な行動をとる」をしたら、また過ちを繰り返すことになりかねません。

イランと北朝鮮の分断

イランと北朝鮮の関係は、とても強いつながりがあります。

1980年代にイランとイラクの間で戦争がおこりました。 その際、国際的に孤立したイランに対して、兵器の取引や経済援助の手を差し伸べたのが、北朝鮮でした。

特にミサイルや核開発など兵器の取引は、その後も継続しておこなわれていると言われています。

【日本経済新聞 2017.9.26】
米国との対立を深める北朝鮮とイランが、核・ミサイル開発で協力を続けているとの疑惑がくすぶっている。米欧の情報機関はイランが北朝鮮に多額の資金を提供し、同国の弾道ミサイルや核兵器の技術を得ているとの見方を強める。 ロシアが協力を黙認しているとの観測もあり、米国は警戒を強めている。

「イランは北朝鮮と協力している」。トランプ米大統領は23日、ツイッターにこう投稿した。イランが同日発表した新型弾道ミサイルの発射実験に強い危機感を示した。 

イランと北朝鮮は核・ミサイル分野の協力を公表していないが、米欧の情報機関は両国の連携は「疑いがない事実」(西側外交筋)とみる。

イランとの核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」について、虎ノ門ニュースで青山繁晴議員が考えを述べています。

「普通に、たんたんとイランとの核合意の中身を点検したら、恐るべき合意なんですよね。 実質イランの核合意(開発の間違いかと)を保障していると、当面大人しくしてくれたら10年後自由だしみたいな話なんです。」

「EUは中東に大人しくしていてほしいんです。」(だからトランプの説得に動いた)

この時の青山繁晴議員は、「北朝鮮が現在保有している核爆弾の数は、日本政府の分析では最低27個(米国は最大80個と分析)」という話をしていました。

色々な核弾頭があるなかで、北朝鮮保有の最小の核弾頭は重さにして1トンとのことです。車の重量と比較して話をしていますが、要するに充分移動が可能な大きさなのです。

実際、トランプ大統領の指摘している核合意破棄の理由の主なものは3つです。

  • 核開発制限に期限があること
  • ミサイル開発に対して制限がないこと
  • テロ組織を経済的に支援しているのに野放しであること

北朝鮮とイランの関係を考えると、双方を厳しい条件でしばりつけないと、どちらかが抜け穴になってしまう可能性があるのです。

親イスラエルといえるトランプ大統領が在任中に、何とかイランを叩いておきたいイスラエルの思惑もあります。

イランとの核合意破棄は、トランプ大統領の暴走というような単純な話ではないことだけは確かです。


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